4/28(金)4/29(土)は喜多直毅クアルテット2days@渋谷・公園通りクラシックス

 今回は『難民』と題してお届けします。

(詳しくは前回の記事をご覧ください。)

一曲、短歌のように短いのを作りました。
作っていて浮かんだのは、“庭に揺れる金鳳花”のイメージです。
否、順序が逆で無意識に金鳳花の庭を曲にしていたのかも。

金鳳花って基本的には雑草のようですね、好きで栽培する方もいらっしゃるようですが(僕も好きです)。

一応テーマを決めて曲を書く時、その世界の中にいる人の気持ちを想像してみたりする。
また風景の中に自分自身を置いてみたりします。
それはあくまでも僕の想像とか妄想にしかすぎないのですが、創作のとっかかりに必要だったります。
とにかく心や風景に耳を澄まさなくては始まらない。

この花が暖かい春の日、風に揺れている。
どこかからかパンを焼く香り。
ポプラ並木、白樺林から小鳥の囀り。
5月の美しい景色です。
彼の国であれば6月か7月かも。

その金鳳花が現実に庭に咲いているかどうか、今は分からない。
それは、離れざるを得なかった祖国の、ふるさとの、我が家の庭に咲いている花。
今も咲いてくれているかどうか確かめたいし、その姿を楽しみたいけれど、もう二度とその庭には帰ることができない。
だから現実に咲いているかどうか確かめられない。

ひょっとしたら自分が家を去った後、その花は庭ごとミサイルでめちゃめちゃにされてしまったかも知れない。
戦車が踏み荒らしたかも知れない。
或いは庭は戦死者の墓地として掘り返されて、花たちはどこかに棄てられてしまったかも知れない。
いずれにせよ自分はあの庭に立つことはもう出来ないのだから、現実に咲いていようがいまいがどうすることも出来ない。

このディスタンスを思う時、とても絶望的な気持ちになってしまう。
自分という存在が弱くちっぽけで、嵐に翻弄される木の葉のように感じられる。

今、寝室としてあてがわれた部屋で、自分の息に耳を澄ましている。

心の中の庭にはいつだってあの可愛い黄色い花が咲いていて、風に揺れている。
そして花と共に、心にはあの庭も、あの家もあり続ける。
家族も友達も、祖国を離れる前と同じようにいてくれる。
自分が通っていた学校も職場も、遊んでいた公園も、友達とおしゃべりしたカフェも。

それは目を瞑った暗闇の中に映し出される幻のようなものかも知れない。
でも、自分にとって花も庭も確実に在る。
激しい痛みと深い悲しみも伴うが、金鳳花の庭を思い出す時にしか得られない幸せと安らぎがある。

普段は開かない、けれど大事な本のように引き出しに大切にしまってある記憶。
本心を言えば、出来ることなら一生開かずにいたい。
1ページも捲ることなく、今の状況の中で粘り強く前向きに生きていきたい。

それでもその本を捨てることは出来ないだろう。
礼儀、誠実さ、慎み深さ、努力、優しさ。
そういったものまで一緒に捨てることになる気がして。

こんなことを一曲にしてみました。
こうして文章にしてしまうと凄く長いのですが、実際は三十一文字のように短い曲です。
ぜひ聴きにお越しください。

『難民 Refugees』

出演:喜多直毅クアルテット
   喜多直毅(ヴァイオリン)
   北村聡(バンドネオン)
   三枝伸太郎(ピアノ)
   田辺和弘(コントラバス)
内容:喜多直毅オリジナル作品

日時:2023年4月28日(金) 19:00開場/19:30開演/20:30終演予定
   2023年4月29日(土) 14:30開場/15:00開演/16:00終演予定
会場:公園通りクラシックス(渋谷)
   〒150-0042東京都渋谷区宇田川町19-5
   東京山手教会B1F
   03-6310-8871
   ※JR・東京メトロ・東急線・京王井の頭線渋谷駅下車徒歩8分

◉入場料:
・どちらか1日分のご予約¥4,500
・2日連続予約¥8,000(4月28日のご来場時に¥4,500、翌4月29日に¥3,500を申し受けます)
・当日(両日とも)¥5,000
●2日連続予約は4月28日(金)までにお願い致します
●4月28日(金)に翌日4月29日(土)のご予約を頂いた場合は¥4,500を申し受けます。

・メールでのお申し込み:violin@nkita.net(喜多)
 メールタイトルは「喜多クアルテット4月予約」、メール本文に「代表者氏名、人数、連絡先電話番号、ご予約希望の公演日付」を必ずご記入の上、お申し込みください。
・電話でのお申し込み  Tel:03-6310-8871(公園通りクラシックス)
●小学生以下のお子様はご入場頂けない場合がございます。

泥をよけずに踏み固めるかのごとき直截さは、聴き手がふだん目を背けている深層心理を抉り出す。とりわけヴァイオリンを中心に、個々の楽器は前衛的な奏法を随所で前面に出すが、立ち現れる音はどれも本質を突く。感情の襞に真っ向から突き刺さる。ひとつの擦弦が、打鍵が、ピッツィカートが、刻々と意識の深化を誘発し、あたかも落下する砂時計の砂を直視するような臨場感。一音が含みもつ情景の多様さ―楽器の属性を飄々と飛び越え、自在に混ざり合いクラッシュしては、多面的に動く。トゥッティでのスタミナは驚異的だ。
文章:伏谷佳代
JazzTokyo #1196 「喜多直毅クァルテット/沈黙と咆哮の音楽ドラマ」(2022年2月4日・新宿ピットイン公演レビュー)より引用

【喜多直毅クアルテット】
2011年、ヴァイオリニスト喜多直毅によって結成された四重奏団。演奏される楽曲は全て喜多のオリジナル作品であり、その出自とも言うべきアルゼンチンタンゴからフリージャズ、即興演奏、現代音楽まで、様々な要素を呑み込んで再構築された、比類なき音楽である。濃厚な旋律と激しいリズムによって生み出される圧倒的な音楽劇は高い精神性を宿し、幅広い層からの支持を集める。
4人のメンバーはそれぞれの楽器における国内屈指のタンゴ奏者と目されつつ、卓越した実力により、ジャンルを超えてシーンの最先端で活躍している。この4人においてこそ実現する超絶なる表現が、聴衆の気魂を揺さぶり“ドゥエンデ(Duende)”を呼び醒ます。

喜多直毅(作曲・ヴァイオリン)
1972年岩手県出身。国立音楽大学卒業後、英国にて作編曲を、アルゼンチンにてタンゴ奏法を学ぶ。現在は即興演奏やオリジナル楽曲を中心とした演奏活動を行っている。タンゴに即興演奏や現代音楽の要素を取り入れた“喜多直毅クアルテット”の音楽は、その独創性と精神性において高く評価されている。他に翠川敬基、黒田京子、齋藤徹等、国内を代表する即興演奏家との演奏と録音、また邦楽・韓国伝統音楽奏者・ダンサーとの共演も数多い。欧州での演奏も頻繁に行なっている。作家の高樹のぶ子の朗読舞台でも演奏と作曲を行なっている。ソングライターとしては上條恒彦に作品提供(敬称略)。

北村聡(バンドネオン)
関西大学在学中にバンドネオンに出合い小松亮太に師事、ブエノスアイレスではフリオ・パネのレッスンを受ける。世界各国のフェスティバルで演奏。これまでに鈴木大介、舘野泉、波多野睦美、夏木マリ、EGO-WRAPPIN'、川井郁子、中島ノブユキ、カルロス・アギーレ、東京交響楽団と共演。NHK「八重の桜」、映画「そこのみにて光輝く」をはじめ様々な録音に参加、繊細な表現には定評がある。ジャノタンゴ、三枝伸太郎Orquesta de la Esperanza、大柴拓カルテットなど数多くの楽団に参加、活動中。

三枝伸太郎(ピアノ)
1985年神奈川県出身。東京音楽大学大学院音楽科作曲専攻修了。アルゼンチンタンゴのピアニストとして 2008年よりバンドネオン奏者、小松亮太氏のコンサート・ツアー、レコーディングに参加。その後、タンゴのみならずジャズ、ポップス、ブラジル音楽など様々なジャンルで活躍。また、作曲家として、シンガーへの楽曲提供、映画音楽、舞台作品への作曲と演奏での参加など数多く手掛ける。近年は坂東玉三郎のコンサート音楽監督、劇作家・演出家点女優渡辺えりの舞台音楽、NHKBS8K「国宝へようこそ」音楽担当など。

田辺和弘(コントラバス)
クラシック、アルゼンチンタンゴ、即興演奏などで活動するベーシスト。在学中からタンゴと出会い、日本はもとよりアルゼンチンの若手からタンゴ全盛時代のミュージシャンとも多く共演している。故齋藤徹氏と出会い共演をきっかけに様々なジャンルでも即興的なアプローチを試みている。喜多直毅クアルテットやベーストリオThe  Bass Collectiveの他、国内の様々なタンゴバンドに継続的に参加しつつ、ジャンルに関係なくその音楽自体の持つエネルギーを表現するべく模索、活動している。

金鳳花


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