2019年7月17日水曜日

挫折と初心と喜多クアルテット

齋藤徹さんが亡くなって暫く経ちました。
これまでの歩みを振り返って、徹さんとの出会いは自分の人生の中でとても大きく、それだけに逝ってしまった事も大きな出来事です。
徹さんとの別れが自分の音楽人生の一つの節目ではないかと最近強く感じています。

この10年間、音楽活動に様々な事があったように、プライベートな生活にも大きな出来事が多々ありました。
寧ろプライベートな生活の方にこそ、巨大地震があり大津波があったと言って過言ではありません。
音楽活動は実は影のようなもので、実生活はもっとドラマティックで波乱に満ちたものでした。
いつの日か、この日々にどんな事を経験したか詳しく記したいと思っています。
それはきっと様々な人の役に立つ文章になると信じているからです。
しかし今はまだ伏せておきます。

ただ少しだけ、10年前のことを思いつくままにラフに書いてみたいと思います。
人様に迷惑をかけない範囲で、です。

2009年4月13日、10年前の演奏姿。翠川敬基さんのバンド“緑化計画”のライヴ。
@アケタの店(東京・西荻窪)

様々な人に出会いました。
両親から虐待され、40歳を過ぎてもその呪縛から逃れられずに苦しむ男性。
他者との関係だけではなく自分自身との関係がうまく築けずに悩んでいました。
彼とは何度か実際に会って色々な話をしたり、カラオケに行ったりしました。
高学歴なのに、能力があるのに、一度人生で躓いてしまった。
それが元で職を失い、家族を支えるためアルバイトスタッフとして不本意な仕事をしている。
それは社員さんに郵便物を配って回る仕事でした。
「仕事があるだけ感謝」と言って、自分自身の今の姿を何とか受け入れようとしていました。
めげつつもめげない様に、負けそうになりながらも負けない様に…、まるで嵐に揺れる一本の草のごとく生きている人でした。

拒食症の女性もいました。
彼女ともたまに会って食事をしたり、カラオケに行ったりしました。
旦那さんとの関係を断ち切って新しい人生を歩みたいのに、どうしても“元の鞘”に戻ってしまう。
そんな自分が嫌で嫌で仕方がないと言っていました。
別の女性は子供の頃にイジメにあった経験がトラウマとなり、ずっと引きこもっていました。
やっと外に出られる様になり、社会との関わり作りのリハビリとして、ホームレスの人たちの売る雑誌を買い彼らの話し相手になっていました。

入谷や竹ノ塚、梅島にも思い出があります。
そこには自分で自分の人生を台無しにしてしまった人たちがいました。
一度落ちるところまで落ちてやっと立ち直ったかと思うと、自らまた元の泥沼に戻ってしまうのです。
彼らの濁った目を忘れることが出来ません。
その目は単に濁っているのではなく、救いを求める弱い者の目でした。
殴られそうになった時、自分を庇う腕。
その腕の下から相手を見上げる時の、あの目です。

ある男性は奥さんに離婚を突き付けられました。
理由は彼が奥さんに暴力を振るうからです。
彼は何とか暴力を止めるべく努めていたのですが、「あなたは何も分かっていない!!!」とある女性から激しくなじられました。
返す言葉もなく額に脂汗を滲ませながら、彼はその場に立ち尽くしていました。
その女性もかつてパートナーから暴力を受けて、心に深い傷を負っていたのです。
彼は「人間失格」という烙印を押され、そして自らそう名乗ることでその場は許され、項垂れて帰って行きました。
後から知ったのですが、その女性は妻子ある男性と不倫関係にありました。
僕は何だか釈然としませんでした。

ここに書いた人たち以外にも様々な人に出会いました。
心の病と貧困に苦しむ人。
真夏の東京でエアコンもなく、板橋のゴミゴミした街路の奥に彼は暮らしていました。
近所のマンションには別れた奥さんが娘と暮らしており、たまに娘に会えることだけが楽しみだと言っていました。
抗うつ剤をビールで流し込んでいるので、酒と薬を一緒に飲むのは良くないと忠告すると「お前は真面目過ぎる」と言われました。

列挙してみると、所謂“不幸”な人たちですが、彼らからするとこの僕も“不幸”に見えたかも知れません。
実際、心の有り様や暮らしぶりは大して彼らとは違いなかったのではないかと思うのです。
彼らは社会や人間関係から孤立した人達。
世の中で尊ばれる価値観から遠く離れた人達。
自分なんかこの世に必要のない存在だと感じている人達。
そんな彼らと出会ったのは僕にとって意味のあることだったのでしょう。

10年前の僕の状態を一言で言い表すとすれば、それは挫折です。
僕は、挫折は誰にでもあり得ることで、それなくしては人間は成長しないと思っています。
挫折の只中は決して気分の良いものではありません。
しかしそれを通してしか分からないことがあり、後に人間に深みを与え、人生の大きな財産になり得る。
その輝きは決して人目を引くほど煌びやかではないかも知れない。
しかし心の目で見た時に分かる。
その人生は薫り高い。

潮が引く様に周囲から人が去っていく。
僕はそれを経験しました。
あぁ本当にこういうことがあるんだと一人呆然としていました。
去っていった人たちを恨みもしました。
しかし同時に、その人たちもそうせざるを得なかったんだと、自分を納得させることに努めました。
そして自分も間違っていた、自分の方が悪かったんだと次第に分かってきた。
(ここ数年です、やっと彼や彼女が去っていった理由が腑に落ちて恨みが消えたのは。)

実際、彼ら(上に書いた人達)が今どこでどうしているかは分かりません。
しかし悩みや問題が少しでも解決出来ていて、明るく暮らしていてくれればと願います。
そして人生の谷間を歩んだ経験がきっと彼らを幸せに導くと信じています。

世の中には躓き倒れる人がいる。
しかし起き上がる人だっている。
僕はその両方に向けて音楽をやりたいと思っています。
否、人に向けてというよりも、僕も躓き起き上がる人間として、自分が聴きたい音楽がやりたい。
それが喜多クアルテットの音楽です。

冒頭の話に戻りますが、僕は喜多クアルテットも一つの節目ではないかと思っています。
このグループを始めた頃は聴く人はまだまだ少なかった。
しかしそんなことは一つも気になりませんでした。
客席が空いていても、会場には気持ちや願いが満ちていて、ただ音楽がありさえすれば良かった。
メンバー達のエネルギーによって音楽は燃焼し、まるで黒い蒸気機関車の様に疾走しました。
僕は演奏で滅多に汗をかきませんが、このグループのライヴの後はシャツがびっしょりと濡れ、着替えの下着が必要なほどでした。

喜多直毅クアルテット結成後二度目の公演『新・東北音楽紀行』  喜多直毅(作曲・ヴァイオリン)北村聡(バンドネオン)三枝伸太郎(ピアノ)田辺和弘(コントラバス)  2011年4月23日@渋谷・公園通りクラシックス
喜多直毅クアルテット結成後二度目の公演『新・東北音楽紀行』
喜多直毅(作曲・ヴァイオリン)北村聡(バンドネオン)三枝伸太郎(ピアノ)田辺和弘(コントラバス)
2011年4月23日@渋谷・公園通りクラシックス

今、結成当時とそっくりそのまま同じ様にやろうとは言いませんが、やはり初心忘れるべからず。
自分がなぜこのグループを始め、何をやりたくてここまで来たのか。
改めて問い直す時期に来ているのかも知れません。

前回の記事でも書きましたが、今回の公演タイトルには丁度『青春』という言葉を使いました。
初心云々を込めて付けたタイトルではありませんが、このグループが若かった頃、言うなればクアルテットの青春時代をもう一度思い巡らしたい。
そしてあの頃の姿勢に立ち返るべく、今回の公演を行いたいと思います。
ある意味、再出発となろう公演です。
皆さま、是非お出かけください!

◉7/24夜 喜多直毅クアルテット『青春の立像』 ~沈黙と咆哮の音楽ドラマ~(永福町)


喜多直毅クアルテット『青春の立像』~沈黙と咆哮の音楽ドラマ~  喜多直毅(作曲・ヴァイオリン)北村聡(バンドネオン)三枝伸太郎(ピアノ)田辺和弘(コントラバス)  2019年7月24日@sonorium
喜多直毅クアルテット『青春の立像』~沈黙と咆哮の音楽ドラマ~
喜多直毅(作曲・ヴァイオリン)北村聡(バンドネオン)三枝伸太郎(ピアノ)田辺和弘(コントラバス)
2019年7月24日@sonorium

出演:喜多直毅クアルテット
   喜多直毅(作曲とヴァイオリン)
   北村聡(バンドネオン)
   三枝伸太郎(ピアノ)
   田辺和弘(コントラバス)
内容:喜多直毅オリジナル作品

技巧・楽曲構造・感情の発露の全面にわたり、大きな振れ幅をもつのが魅力のユニットであるが、同等な存在感をみせつけるのは、音楽の増幅の狭間から覗く現実感たっぷりのざらついたテクスチュアである。楽器と肉体との接合の在り様か。「いぶし銀」という単語も近くて遠い。ノイズとも異なる。プリペアド奏法やそれらが生む掠れや軋みや沈黙、さまざまな様式の諸要素をはらみつつ、感情面では喜怒哀楽が同期する。苦悩や贖罪意識、希望がないまぜに膨れ上がる。ハードなドライヴ感ではあるが、何かに突き動かされて前進せずにはおれないような逼迫感に貫かれる。
文章:伏谷佳代
JazzTokyo #12019年7月24日喜多直毅クアルテット@ソノリウム公演069 3/3 喜多直毅クァルテット二日連続公演『詩篇』ー沈黙と咆哮の音楽ドラマー』

日時:7月24日(水)19:00開場 19:30開演
会場:ソノリウム(永福町)
   168-0063 東京都杉並区和泉3-53-16 
   TEL 03-6768-3000
   京王井の頭線 永福町駅下車(北口) 徒歩7分 
   東京メトロ丸の内分岐線 方南町駅下車 徒歩10分

料金:予約¥4,000/当日¥4,500

ご予約/お問い合わせ
◾︎メール:violin@nkita.net
※メールタイトルは「喜多直毅クアルテット7/24予約」、メール本文に《代表者氏名》《人数》《連絡先電話番号》を 必ずご記入の上、お申し込み下さい。

◉ ご予約に際しての注意事項
・ご予約の締め切りは公演前日7月23日深夜24:00までとさせて頂きます。
・10歳以下のお子様のご入場はお断りする場合がございます。

主催・企画制作:喜多直毅
制作アシスタント:山本悦子
フライヤーデザイン:山田真介

2019年7月15日月曜日

来週水曜日(7/24水)は喜多直毅クアルテット『青春の立像』!!!

喜多直毅クアルテット
喜多直毅(作曲・ヴァイオリン)北村聡(バンドネオン)三枝伸太郎(ピアノ)田辺和弘(コントラバス)

危うく『青春の蹉跌』と書くところでした。
違います、『青春の立像』です。

いきなりですが、人間の身体に胸郭ってありますよね?
僕にはこれが鳥籠に見える。



この中に人は一羽の鳥を飼っており、強い思いや願いを抱く度、鳥籠の中で暴れ騒ぐ。
そして胸を突き破って外に飛び立とうとする。
この鳥の持つエネルギーを青春と呼びたいのです。
とてもとても強いエネルギーです。

皆さん、カラスを間近で見た事がありますか?
案外大きいですよね。
嘴も大きく、鋭く、強そう。
そして声も間近で聞くと思いの外大きくて驚く。

いつだったか怪我をしたカラスが道で踠いていて、バサバサと羽ばたきをしていました。
ごめんなさい、動物病院へは連れて行きませんでした。
正直、気持ち悪いと思ってしまいました。
でもその羽ばたきの異常なまでの強さは今でも強く印象に残っています。

人間は胸郭の中に、この強い羽と大きな鳴き声を持った鳥を飼っている。
大半の人がこの鳥を無事に飼い慣らして生きていく。
エネルギーを建設的でポジティブな方向に向け、他者と睦み合い、自己実現を叶えていく。

でもそれが出来ない人たちもいて、彼らは胸の中の鳥同様、悲鳴を上げたり暴れたりする。
暗いエネルギーが暴発し、時に雑踏に車で突っ込んで人をナイフで刺したりもする。
警官から拳銃を奪い、罪なき人を撃つ。
またある人たちは鳥籠から羽ばたくことが出来ず、長い間、閉ざされた日々を送る。
鳥籠の中は掃除されず、腐り果てた餌や糞でいっぱいなのです。

負のエネルギー・鬱屈としたエネルギーこそ、僕が音楽にしたいものです。
それは何故か?
問題があると思うからです。
この問題が気になって仕方がない。
この問題は音楽でどうにか出来るわけではない。
しかし問題がある限り、僕はそれを看過できず、やっぱり音楽を通して触れてみたい。

僕は別にルポライターでもドキュメンタリー作家でもなく、評論家でも犯罪心理学者でもない。
文学の人間でもない。
ただのヴァイオリン奏者に過ぎないのだから、何もこんな問題に題材を得なくても良いのです。

しかし自分の胸郭にも、もがく鳥がおり、それは今尚胸を突き破らんばかりに暴れている。
このエネルギーは何だろう?
もう50歳も目前となり、この歳で“青春”と自分の居場所を呼ぶのも恥ずかしいことだと了解しています。
しかし相変わらず挫折や失敗や他者との諍いを繰り返しても学ぶことのない僕は、未だに愚かな鳥を胸郭に秘めているのだと思っています。
だがこの鳥の声からメロディを、羽ばたきからリズムを得ることが僕にとっての音楽の作り方です。

本当はこの作り方は良くありません。
音楽をエゴで満たしてしまうから。
そして自分自身をも不健康にするからです。
しかしこんな作り方しか出来ない…。
(ここから先はキリスト教の領域。)

青春とはもがくエネルギー。
青春とはのたうつ力。
青春とは喉から血が出るほどの叫び。
青春とは閉ざされた内面に充満する黒い煙。
決して若さのことだけではない、鳥籠の中の有様・行為・思考。
青春、それは傷ついて血を流すこと。
社会で”生”から遠く“死”に近い人々が世を藪睨みをする、その眼力の強さ。

今まで何度も喜多カルテットの公演を行ってきました。
毎回異なるテーマを掲げて。
しかし僕が音楽でやりたい事、それは結局一つなのです。
毎回視点を変えるだけ。
曲調が変わっても描きたいものは一つ。
それはやっぱり”人間”なのです。

◉7/24夜 喜多直毅クアルテット『青春の立像』 ~沈黙と咆哮の音楽ドラマ~(永福町)

喜多直毅クアルテット『青春の立像』~沈黙と咆哮の音楽ドラマ~ 喜多直毅(作曲・ヴァイオリン)北村聡(バンドネオン)三枝伸太郎(ピアノ)田辺和弘(コントラバス) 2019年7月24日@sonorium
喜多直毅クアルテット『青春の立像』~沈黙と咆哮の音楽ドラマ~
喜多直毅(作曲・ヴァイオリン)北村聡(バンドネオン)三枝伸太郎(ピアノ)田辺和弘(コントラバス)
2019年7月24日@sonorium

出演:喜多直毅クアルテット
   喜多直毅(作曲とヴァイオリン)
   北村聡(バンドネオン)
   三枝伸太郎(ピアノ)
   田辺和弘(コントラバス)
内容:喜多直毅オリジナル作品

技巧・楽曲構造・感情の発露の全面にわたり、大きな振れ幅をもつのが魅力のユニットであるが、同等な存在感をみせつけるのは、音楽の増幅の狭間から覗く現実感たっぷりのざらついたテクスチュアである。楽器と肉体との接合の在り様か。「いぶし銀」という単語も近くて遠い。ノイズとも異なる。プリペアド奏法やそれらが生む掠れや軋みや沈黙、さまざまな様式の諸要素をはらみつつ、感情面では喜怒哀楽が同期する。苦悩や贖罪意識、希望がないまぜに膨れ上がる。ハードなドライヴ感ではあるが、何かに突き動かされて前進せずにはおれないような逼迫感に貫かれる。
文章:伏谷佳代
JazzTokyo #12019年7月24日喜多直毅クアルテット@ソノリウム公演069 3/3 喜多直毅クァルテット二日連続公演『詩篇』ー沈黙と咆哮の音楽ドラマー』

日時:7月24日(水)19:00開場 19:30開演
会場:ソノリウム(永福町)
   168-0063 東京都杉並区和泉3-53-16 
   TEL 03-6768-3000
   京王井の頭線 永福町駅下車(北口) 徒歩7分 
   東京メトロ丸の内分岐線 方南町駅下車 徒歩10分

料金:予約¥4,000/当日¥4,500

ご予約/お問い合わせ
◾︎メール:violin@nkita.net
※メールタイトルは「喜多直毅クアルテット7/24予約」、メール本文に《代表者氏名》《人数》《連絡先電話番号》を 必ずご記入の上、お申し込み下さい。

◉ ご予約に際しての注意事項
・ご予約の締め切りは公演前日7月23日深夜24:00までとさせて頂きます。
・10歳以下のお子様のご入場はお断りする場合がございます。

主催・企画制作:喜多直毅
制作アシスタント:山本悦子
フライヤーデザイン:山田真介

2019年7月11日木曜日

タンゴ関連の演奏後記とお知らせ

このところアルゼンチンタンゴのライヴが続きました。
6/28は池田みさ子さん(pf)早川純さん(bn)とのトリオ、6/30は北村聡さん(bn)松永裕平さん(pf)と自分がリーダーのトリオ、7/6は京谷弘司さん(bn)淡路七穂子さん(pf)チヅコ&エセキエルのお二人(dance)とディナーショー、7/7はレオナルド・ブラーボさん(gt)とのデュオ。
それぞれ楽しいライヴとなりました。
自分がリーダー or 半分リーダーとして行ったライヴは満席にして頂き大変嬉しかったです!

喜多直毅タンゴトリオ: 喜多直毅(ヴァイオリン)北村聡(バンドネオン)松永裕平(ピアノ) 2019年6月30日@雑司が谷エルチョクロ
喜多直毅タンゴトリオ:
喜多直毅(ヴァイオリン)北村聡(バンドネオン)松永裕平(ピアノ)
2019年6月30日@雑司が谷エルチョクロ

喜多直毅タンゴトリオ: 喜多直毅(ヴァイオリン)北村聡(バンドネオン)松永裕平(ピアノ) 2019年6月30日@雑司が谷エルチョクロ
喜多直毅タンゴトリオ:
喜多直毅(ヴァイオリン)北村聡(バンドネオン)松永裕平(ピアノ)
2019年6月30日@雑司が谷エルチョクロ

喜多直毅(ヴァイオリン)Leonardo Bravo(ギター) 2019年7月7日@雑司が谷エルチョクロ
喜多直毅(ヴァイオリン)Leonardo Bravo(ギター)
2019年7月7日@雑司が谷エルチョクロ

喜多直毅(ヴァイオリン)Leonardo Bravo(ギター) 2019年7月7日@雑司が谷エルチョクロ
喜多直毅(ヴァイオリン)Leonardo Bravo(ギター)
2019年7月7日@雑司が谷エルチョクロ

どうも僕はタンゴに、というかタンゴヴァイオリンに保守的なところがあり、タンゴヴァイオリンとはこう言う音色でなくてはダメだとかこう言うフレージングじゃなくてはダメだと思ってしまう。
それは単純に自分がCDや生演奏で聴いた巨匠タンゴヴァイオリニストたちの言わば『亡霊』なのですが、実際の自分はそのようには弾けない。
演奏技術も音楽性も断然劣る。

そして僕の中にはタンゴヴァイオリンと規定しているのとは全く異なる絵の具があって、それをタンゴに使ってはダメだと信じ込んでいる。
例えばノイズだったり、荒々しいジプシーフィドル的なボウイングだったり。
タンゴは『型』や『スタイル』の強い音楽なので、そこから逸脱することを恐れているのです。
とりあえずその『型』や『スタイル』を脇に置いて、『もう逸脱しても良いや、何か自分流の“タンゴ”が生まれれば』と思って始めたのが喜多直毅クアルテットでした。
それはタンゴに聴こえなくても良いし、もはや自分の中でタンゴで無くなっても良い。
自分にとってのリアリティと必然性に満ちた音楽ならばそれで構いません。

最近再び型のあるタンゴを弾くことが多くなり、この音楽に対する感じ方が前と少し変わって来ているのは確かです。
とにかく“今・ここ”で音楽が生み出されている感覚さえあれば、ジャズでもタンゴでもクラシックでも、それは“時間の無い時間”となり、素晴らしいものなんだと思えるようになりました。
この感覚が無ければ、どんなに型通りにタンゴを弾いていてもつまらない演奏になってしまうのではないか。

とにかく今は難しい問いだとかモヤモヤは頭の中から追い出して、ただタンゴを楽しもうと思っています。
やっぱり素晴らしい音楽だし、弾いていて楽しい。
一緒に演奏してくれる仲間がいること、誘ってくれる方がいること、会場に足を運んで下さる方がいてくれることは本当に嬉しいものです。


さて先日のブラーボさんとのライヴにはわざわざ地方からあるタンゴヴァイオリニストが聴きに来てくれました。
彼は僕よりも五歳年下ですが、タンゴに関しては僕以上に研究を重ね、ヴァイオリン独奏によるタンゴ曲のアレンジや録音も行っている。
またクラシックも弾きこなし、最近ではジャズや即興演奏にも精力的に取り組んでいます。
僕よりも確かなテクニックを持っていると思います(ちょっと嫉妬)。
その彼がライヴに足を運んでくれたことがとてもとても嬉しかった。

まだ宿泊するホテルを予約していないと言うし、東京都心のビジネスホテルでも結構な値段がする。
と言うことでウチに泊まってもらいました。
色々な話、音楽・演奏・タンゴについての話から、プライベートな話、はたまた下ネタまでw深夜まで話しました。
実は僕にはこう言う話が出来るタンゴヴァイオリニストが余りいなくて、寂しい寂しい人間なのです。
と言うかこれも長く鎖国政策をとって来た自業自得の結果なのですが。

僕はどうも先輩風を吹かせたり上から目線になってしまいがちなのですが、どうだったんだろう???
嫌じゃなかったかな。
前に彼からレッスンを頼まれたことがあるのですが、いえいえ、僕にレッスンできるほどのものはありません…。
寧ろヴァイオリンの基礎を教えて欲しいくらいです。

でも一つ言えるのは、もし僕がレッスンをするとしたら自分の失敗談を包み隠さず伝えることです。
奏法とかではなく、こう言う気持ちで音楽に向き合っていたら痛い目にあった、とか。
音楽面に限らず、こう言う生き方をしていたら挫折・破綻に至ったとか。
そういう話ならいくらでもあります。

とにかく彼と夜更けまで話せたことがとても嬉しかった。
今度はぜひ彼のライヴに行ってみたいと思っています。


さてさていつもの記事と同様、ここからは宣伝コーナー。
いくつかタンゴ演奏の予定が決まっています。
それぞれ皆さんのスケジュール帳にマークしておいて頂けると嬉しいです!!!

◉7/3午後 京谷弘司タンゴトリオ(銀座)


京谷弘司トリオ タンゴライブ 京谷弘司(バンドネオン)淡路七穂子(ピアノ)喜多直毅(ヴァイオリン) 2019年8月3日@銀座リベルタンゴ
京谷弘司トリオ タンゴライブ
京谷弘司(バンドネオン)淡路七穂子(ピアノ)喜多直毅(ヴァイオリン)
2019年8月3日@銀座リベルタンゴ

出演:京谷弘司(バンドネオン)
   淡路七穂子(ピアノ)
   喜多直毅(ヴァイオリン)
内容:アルゼンチンタンゴ
日時:2019年8月3日(土)13:30開場/14:30開演
会場:GINZA LIBERTANGO(銀座)
   東京都中央区 銀座5-10-6 第一銀座ビル7F
   03-6875-9899
   料金:予約¥4,000/当日¥4,500(+1ドリンクオーダー)
予約:03-6875-9899 / 090-3471-1317
         saeyjuan@yahoo.com


◉10/27 喜多直毅タンゴトリオ(府中)


『耳のごちそう』vol.3 極上のタンゴ:喜多直毅タンゴトリオ 喜多直毅(ヴァイオリン)北村聡(バンドネオン)松永裕平(ピアノ) 2019年10月27日@IN VINO VERITAS(府中)
『耳のごちそう』vol.3 極上のタンゴ:喜多直毅タンゴトリオ
喜多直毅(ヴァイオリン)北村聡(バンドネオン)松永裕平(ピアノ)
2019年10月27日@IN VINO VERITAS(府中)

『耳のごちそう』vol.3 極上のタンゴ
出演:喜多直毅タンゴトリオ
   喜多直毅(ヴァイオリン)
   北村聡(バンドネオン)
   松永裕平(ピアノ)
内容:アルゼンチンタンゴのスタンダード
日時:2019年10月27日(日)14:00開場/15:00開演/16:00終演予定
会場:IN VINO VERITAS(府中)
   東京都府中市本町1-1-7
   042-368-6368
料金:3,000円(ワンドリンク付き)※終演後、出演者と交流会を行います。
   全席自由
ご予約:ORT Music(オルト・ミュージック 黒田)kkyoko@ortopera.com042-334-3817
    SANTGRIA(サングリア 新井)info@santgria.jp 042-368-6368
    座席に限りがありますので、できるだけ事前にご予約ください。
主催:耳のごちそう実行委員会
共催:ORT Music/SANTGRIA

他に詳細はまだ未定ですが、レオナルド・ブラーボさんとのデュオが10月、京谷弘司さんのトリオでの演奏が11月に予定されています。
会場はどちらも東京のタンゴの殿堂・雑司が谷エルチョクロ。

おっと、それと忘れちゃならねぇ!!!
今月行われる喜多直毅クアルテットです!!!

オーソドックスなタンゴのスタンダードを演奏するわけではありません。
全曲僕のオリジナルです。
これまで『タンゴの喜多直毅』を聴いて下さった方にも是非一度足を運んで頂きたいコンサートです。
どこかにタンゴをエッセンスとしつつも、それだけではない熱い音楽をお届けします!!!

今回のコンサートテーマは青春。
迸るエネルギー、情熱、そして謳歌。
それと同時に葛藤や迷い、苦悩や闘い。
果てしなきものへの憧れ。
それらを音楽で表現したいと思います。

◉7/24夜 喜多直毅クアルテット『青春の立像』 ~沈黙と咆哮の音楽ドラマ~(永福町)


喜多直毅クアルテット『青春の立像』沈黙と咆哮の音楽ドラマ 喜多直毅クアルテット: 喜多直毅(作曲・ヴァイオリン)北村聡(バンドネオン) 三枝伸太郎(ピアノ)田辺和弘(コントラバス) 2019年7月24日@sonorium(永福町)
喜多直毅クアルテット『青春の立像』沈黙と咆哮の音楽ドラマ
喜多直毅クアルテット:
喜多直毅(作曲・ヴァイオリン)北村聡(バンドネオン)
三枝伸太郎(ピアノ)田辺和弘(コントラバス)
2019年7月24日@sonorium(永福町)

出演:喜多直毅クアルテット
   喜多直毅(作曲とヴァイオリン)
   北村聡(バンドネオン)
   三枝伸太郎(ピアノ)
   田辺和弘(コントラバス)
内容:喜多直毅オリジナル作品

技巧・楽曲構造・感情の発露の全面にわたり、大きな振れ幅をもつのが魅力のユニットであるが、同等な存在感をみせつけるのは、音楽の増幅の狭間から覗く現実感たっぷりのざらついたテクスチュアである。楽器と肉体との接合の在り様か。「いぶし銀」という単語も近くて遠い。ノイズとも異なる。プリペアド奏法やそれらが生む掠れや軋みや沈黙、さまざまな様式の諸要素をはらみつつ、感情面では喜怒哀楽が同期する。苦悩や贖罪意識、希望がないまぜに膨れ上がる。ハードなドライヴ感ではあるが、何かに突き動かされて前進せずにはおれないような逼迫感に貫かれる。
文章:伏谷佳代
JazzTokyo #12019年7月24日喜多直毅クアルテット@ソノリウム公演069 3/3 喜多直毅クァルテット二日連続公演『詩篇』ー沈黙と咆哮の音楽ドラマー』

日時:7月24日(水)19:00開場 19:30開演
会場:ソノリウム(永福町)
   168-0063 東京都杉並区和泉3-53-16 
   TEL 03-6768-3000
   京王井の頭線 永福町駅下車(北口) 徒歩7分 
   東京メトロ丸の内分岐線 方南町駅下車 徒歩10分

料金:予約¥4,000/当日¥4,500

ご予約/お問い合わせ
◾︎メール:violin@nkita.net
※メールタイトルは「喜多直毅クアルテット7/24予約」、メール本文に《代表者氏名》《人数》《連絡先電話番号》を 必ずご記入の上、お申し込み下さい。

◉ ご予約に際しての注意事項
・ご予約の締め切りは公演前日7月23日深夜24:00までとさせて頂きます。
・10歳以下のお子様のご入場はお断りする場合がございます。

主催・企画制作:喜多直毅
制作アシスタント:山本悦子
フライヤーデザイン:山田真介


以上、タンゴ関連のお知らせでした。
皆さん、どうぞ宜しくお願いします!!!

2019年7月4日木曜日

7月7日(日)は雑司が谷エルチョクロで喜多直毅&レオナルド・ブラーボ

2018年8月25日喜多直毅(ヴァイオリン)レオナルド・ブラーボ(ギター) 雑司が谷エルチョクロ
2018年8月25日喜多直毅(ヴァイオリン)レオナルド・ブラーボ(ギター)
雑司が谷エルチョクロ

七夕の日の午後、レオナルド・ブラーボさんとのデュオライヴを行います。
会場は雑司が谷エル・チョクロ。
時間は14:00開場15:00開演です。
(まだお席に余裕がございますのでどうぞお誘い合わせの上お越し下さい!)

ブラーボさんとのデュオライヴはもう3回目になりますが、初めてお会いしたのはもう10年以上前かも知れません。
小松亮太さん(バンドネオン)、そしてつい先日共に作ったデュオアルバムをリリースしたばかりの西嶋徹さん(コントラバス)とのクアルテットで全国各地でコンサートを行いました。
何とYouTubeに大阪で行った10年前の演奏の動画がありました!(バンドネオンは早川純さん、コントラバスは田中伸司さんです。)


それから暫くブランクがあり、昨年こちらからお声がけして久々の共演につながりました。

ブラーボさんは素晴らしいところはやはり音色の美しさと、そして響きのコントロールが巧みなところだと思います。
ブラーボさんとのデュオの為に僕も安いギターを買って下手なりに弾いたりしてみたのですが、ギターの魅力とは弾いた音そのものだけではなく、弾いた後の残響をどう処理するのかにもあったんですね!
弾いた後の残響を残しつつ次の音を弾くことによって、そこに音のレイヤーが生まれるのです。
特にブラーボさんのギターソロを聴いていてその美しさと面白さに気づきました。
こんなふうに気付かせてくれるブラーボさん、やはり凄い人です。

7/7はピアソラ作品『忘却』や定番『タンゴの歴史』の他、僕が編曲をさせて頂いた『カミニート』や『ロス・マレアドス』、『パロミータ・ブランカ』も演奏予定です。
タンゴの好きな方、ピアソラの好きな方、ギターファンの皆さん、きっとお楽しみ頂ける内容になると思います。
前回も前々回も大好評でしたので、是非お越し下さい!
どうぞよろしくお願いします!

【7/7(日)喜多直毅(ヴァイオリン)レオナルド・ブラーボ(ギター)】
出演:喜多直毅(ヴァイオリン)
   レオナルド・ブラーボ(ギター)
内容:アストル・ピアソラ作品、古典タンゴ、etc.
日時:2019年7月7日(日)14:00開場/15:00開演
会場:雑司が谷TANGO BAR エル・チョク
   〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-2-8
   03-6912-5539
料金:ご予約¥3,500 当日¥3,800
予約・問合せ:エル・チョクロ
   03-6912-5539/info@el-choclo.com
   violin@nkita.net(喜多)

喜多直毅&西嶋徹アルバム『L'Seprit de L'ENKA』リリース!!!

コントラバス奏者の西嶋徹さんと共に今年2月末に録音した『L'Seprit de L’ENKA』がリリースされました。
このアルバムはCDではなくハイレゾダウンロード配信ですがぜひ多くの方にお聞き頂きたい…、そんな作品です。

L' Esprit de l’ ENKA UNAMAS 喜多直毅(ヴァイオリン)西嶋徹(コントラバス)
L' Esprit de l’ ENKA
UNAMAS
喜多直毅(ヴァイオリン)西嶋徹(コントラバス)

L' Esprit de l’ ENKA

(試聴も可能です。)
Naoki Kita, Toru Nishijima
UNAMAS
2019/06/30
(P)2019 沢口音楽工房
(C)2019 沢口音楽工房
3,000円

収録曲:
・舟歌
・赤い橋
・アリラン
・悲しい酒
・アカシアの雨がやむとき
・ソルヴェイグの歌
・五木の子守歌
・ふるさと

アルバムタイトルは直訳すれば『演歌の精神』。
その名の通り、日本の演歌の名曲と演歌的な情念や『泣き』の込められた歌を収録しました。
八代亜紀さん、美空ひばりさん等、演歌の女王たちの代表曲や、70年代から長きにわたり日本のアンダーグラウンドシーンの女王として黒い輝きを放った浅川マキさんの名曲を、オリジナルアレンジで演奏しています。
また六曲目にはグリーグの名曲『ソルヴェイグの歌』をコントラバスソロで収録。
この曲目の中にあって異色のナンバーですが、西嶋さんの深みのある豊かな音色、そして歌心をたっぷりと味わっていただけると思います。

最近は様々なシンガーや演奏家が昭和歌謡のカバーを行っています。
昭和時代にはそれ程多くの名曲が存在したということでしょう。
今回のアルバムでもコンセプトとして昭和時代の歌を取り上げてはいますが、編曲を担当した僕としては『ヴァイオリンとコントラバスのアンサンブル』という点に重きを置きたかった。
即興演奏シーンでは決してヴァイオリンとコントラバスのアンサンブルは珍しいものではありません。
しかし『歌物』、しかも日本の演歌のカバー集としては、全く異色の、そしてチャレンジングな作品と言えるでしょう。

作品作りにあたっては、殊に西嶋さんの豊かな響きと、彼のソロアルバムで発見したノイズやエクスペリメンタルなサウンドを活かすようなものにしたいと思いました。
実は彼の新たな側面(エクスペリメンタルなアプローチ)を知ったのは割とレコーディングの直前、編曲の最終段階で、もっと早く彼のそう言った面を知っていれば更に多彩なサウンドに溢れた作品作りが行えていたのではないかと少し反省しています。
しかしそれでもなお本作品には彼の様々な表現が随所に現れており、西嶋ファン必聴の出来となっています。

今まで西嶋さんと共同作業を行うことは余りなかったのですが、彼の音楽に対する真摯な姿勢にはとても心打たれるものがありました。
また音楽以外でも、彼が様々なことに興味を持ち、人間の歴史や社会の有り様に対してユニークな視点を抱いていることがリハーサル時の雑談から分かりました。
ミュージシャンとして優れていることは前から知っていましたが、音楽だけではなく、音楽を取り巻く人間社会の有り様にも目を向けている西嶋さんと協働できることは大きな喜びでした。
また同世代と仕事をする機会がめっきり無くなってしまった僕にとって、一つ違いの彼と音楽作りができることも嬉しかったです。
何度もリハーサルに付き合ってくれ、僕の拙い編曲にもちゃんと向き合ってくださった西嶋さんに改めて感謝を申し上げたいと思います。

喜多直毅(ヴァイオリン)西嶋徹(コントラバス) 2019年2月27日レコーディング風景 日本音響エンジニアリング株式会社 Sound Lab (AGS studio)
喜多直毅(ヴァイオリン)西嶋徹(コントラバス)
2019年2月27日レコーディング風景
日本音響エンジニアリング株式会社 Sound Lab (AGS studio)

さて以下に僕が今回のライナーノーツに綴った文章を引用したいと思います。

今回ミックさん(録音エンジニア・プロデューサー)からアルバム制作のお話を頂き、話し合った末、コンセプトはインストによる『演歌』と決まりました。但し演歌と言っても、収録曲は日本の歌に限定せず、“演歌の精神”を持つ曲ならば世界中のどんな曲でも良いということになりました。
しかし実際の選曲はそう簡単ではありませんでした。

そもそも演歌の精神とは何か?
涙、酒、慕情、港町、ふるさと。これらは演歌の歌詞の頻出ワードです。ファドやタンゴの歌詞とも少し共通するかも知れません。言葉一つや比喩一つに込められているのは生きる悲しみ、やるせなさ、失ったものへの追憶、届かぬ慕情などではないかと思います。人生には暗い夜があり、坂道があり、寒々しい冬がある。人が人生の谷間で膝を抱える時、寄り添い共に涙してくれる歌、或いは聴き手の方が心を委ねられる歌、それが演歌ではないかと思います。“聴こえ”は決して明るくはなく物悲しい。しかし、だからこそ誰もが心に宿す影の部分に深く入り込んでくれるのではないでしょうか。器楽演奏には歌のことばはありません。しかし今回の作品作りにおいて、歌詞こそが編曲と演奏の出発点だったことを強調したいと思います。

レコーディングでは演歌以外にシャンソンやラテン音楽も演奏しました。しかしそれらのテイクは日本人が弾く日本の歌の強度に敵わず、結果、不採用となりました。実は演歌を弾き続けるうちに私の指がすっかり“和風”になってしまったのです。これではシャンソンもラテンも弾けない。バッハなどもってのほか。日本人演奏家が自国の歌謡に向き合う時、こんなに身体性が変わるものかと驚きました。

今回の録音のためにヴァイオリンは裸ガット弦を、コントラバスはそれに非常に近い弦を用いています。これらの弦は邦楽器に似たノイズ成分を含んでおり魅力となっています。その弦によって日本の情緒や心の機微を表現出来たらと思いました。

歌は世につれ世は歌につれ。この作品に収録された歌の大半が昭和時代に作られ、歌われたものです。昭和も遥か昔のように思われ、平成から令和へと年号が変わろうとしている今、本作品を通して問いたいことは日本人にとって歌とは何かということです。奏者にとっても聴き手にとっても、歌は心に誠実に向き合った時に始まるもの。現代を生きる日本人は、昭和の演歌や叙情歌の傑作を聴いて、今でも胸を熱くし涙することがあるだろうか?また演奏家である私自身が歌というものに、そして心というものに誠実であるかという自問自答でもあります。
喜多直毅

そしてジャズ評論家の長谷川通教さんによる解説からの引用(抜粋)です。

1曲目から紹介していこう。まずは八代亜紀が1979年に歌った「舟唄」。おそらく誰もが喜多直毅の弾くヴァイオリンに度肝を抜かれるだろう。甘い音色のヴァイオリンで郷愁を……などとイメージしたら、強烈なカウンターを食らう。かすかに聴こえるイントロは、押し殺すような呻き声。西嶋徹のベースは意図的に擦れた音を混ぜ込み、音程も揺さぶっていく。
 「赤い橋」も異彩を放つ。「不思議な橋がこの町にある 渡った人は 帰らない」と、喉から絞り出すように歌う浅川マキの声は鋭い刃のようだった。喜多が技術の限りを尽くして凄絶に弾くヴァイオリンからは、寂しさや哀しさ、怒り、反抗、怨みが聴こえる。これを「ENKA」と言わずして何と言う。
朝鮮民謡の「アリラン」、美空ひばりの「悲しい酒」、西田佐知子の「アカシアの雨がやむとき」、そしてノルウェーの作曲家グリーグの「ソルヴェイグの歌」が続く。主人公のペール・ギュントが放浪の末に老いさらばえて帰郷する。彼の帰りを待ち続けた少女ソルヴェイグも老いていく……そんなソルヴェイグが歌う子守歌。
喜多と西嶋の表現は、クラシック音楽で求められる美しさとはまったく違う。清らかさの中に潜む痛切な哀しみを旋律の奥から引きずり出してくる。
「五木の子守歌」では赤子を背負う少女の口からかすかに漏れてくる涙ながらの呟きだろうか。「ふるさと」の既成概念をはるかに超えた鋭敏さや凄味……それでいて何と叙情的であることだろうか。
 喜多直毅、西嶋徹のデュオが描き出す「ENKA」の世界は、日本人の心に刻み込まれたDNAに訴えかけ、心を震わせるほど強く深いメッセージを秘めている。これはリスナーに向けた果敢な挑戦でもある。2人が寄り添うように近づき、相手の息づかいを感じとりながら、喜多が挑発するようにイントロを弾くと、すかさず西嶋が受けて立つ。喜多としても、これほどまでにENKA魂をぶつけ合ったことはなかったかもしれない。互いに触発し合いながら音楽が創り出される瞬間の何とスリリングなことだろう。
長谷川通教氏

是非皆さんにこのアルバムをお聴き頂いて、溢れる叙情を味わって頂けたらと思います。
録音に『歌詞』という情報が欠けていても(演歌の歌詞は素晴らしいものですが)、何か心に浮かび上がる人それぞれの言葉や映像が
あるのではないでしょうか?

この曲集には、昭和の路地裏がある。
暗い電球の灯る酒場がある。
ひと気のない夜の港がある。
そして胸に秘めた熱情と郷愁がある。


尚、レコ発ではありませんが、8月17日に西嶋徹さんとピアノ奏者の田中信正さんとのトリオでライヴを行いました。
田中信正さんとは二年前に、今回お世話になったミック沢口さんの録音で『Contigo en La Distancia』というアルバムを作っております。
このアルバムでは主にラテン音楽を収録しました。

8/17のライヴは、西嶋さんとのデュオ・田中さんとのデュオの一体化を目指したいと思います。
それぞれ主に僕の編曲作品を演奏していますので、何か統一感のある世界が生まれるのではないかと思いますし、或いは予想とは異なった全く別の音楽が誕生するかも知れません。
とても楽しみです。
どうぞお誘い合わせの上、お越し下さい!

喜多直毅(ヴァイオリン)田中信正(ピアノ)西嶋徹(コントラバス)
喜多直毅(ヴァイオリン)田中信正(ピアノ)西嶋徹(コントラバス)

出演:喜多直毅(ヴァイオリン)
         田中信正(ピアノ)
         西島徹(コントラバス)
内容:暗黒ラテン音楽、演歌、喜多直毅オリジナル

日時:2019年8月17日(土)14:00開場/15:00開演
会場:雑司が谷TANGO BAR エル・チョクロ
   〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-2-8
   03-6912-5539

料金:ご予約¥4,000 当日¥4,500
           学割(30歳まで)ご予約¥1,500 当日¥2,000
予約・問合せ:エル・チョクロ
   03-6912-5539/info@el-choclo.com
   violin@nkita.net(喜多)