演奏後記:3/15『ねじ9』@ソノリウム、3/16『祈りの音楽』@KID AILACK ART HALL

森田志保, 喜多直毅

昨日はフラメンコダンサーの森田志保さんの舞台。
称して“ねじ9”。
森田さんがシリーズとして行っている公演の第九回目です。

出演者は志保さんの他、Jean Sasportesさん(ダンス)、齋藤徹さん(コントラバス)、そして僕。

森田志保, ジャン・サスポータス, 齋藤徹, 喜多直毅

会場は以前、一度だけ演奏したことのある永福町のソノリウム。
大変響きの良い小ホールで、弾いていて本当に気持ちが良い!
良い演奏会場を与えられて本当に嬉しいです。

森田志保, ジャン・サスポータス, 齋藤徹, 喜多直毅
韓国のリズムで。徹さんと僕はゴングを叩いている。

公演の内容はバロック音楽で有名な“La Folia”のテーマ部分を軸に様々な変奏をしたり、韓国のリズム、スペインの歌曲、アルゼンチン・タンゴ等が現れては消えて行くと言うもの。
そして二人のダンサーが即興で踊ります。
見ていた方からは『男女のラヴロマンスの様だった』と感想を頂きました。

この公演では実は僕も少し身体を使わせて頂きました。
客席に向かって直立。
後ろからジャンさんに上体を支えられ右へ左へ後ろへ傾きます。
勿論ヴァイオリンを弾いたまま。
棒のように真っ直ぐな姿勢を保たなければならないのですが、凄く腹筋を使います!!!
ヴァイオリンの演奏と腹筋の両方を持続するのがこんなに難しいとは!

そしてそのまま床に仰向けになります。
今度は僕の脚をジャンさんが引っ張って、僕はステージを右から左へ引きずられていきます。
当然ヴァイオリンは弾いたまま!

森田志保, ジャン・サスポータス, 齋藤徹, 喜多直毅

これ、凄く面白かった!
客席からこのシーンを見たかったです。
どんなふうに見えてたんだろう???

それにしても演奏以外の事をステージで行うのは本当に緊張します。
今回のように“動きのプロフェッショナル”であるダンサーが一緒だと尚更です。
“歩く”、“座る”、“立ち上がる”、“横たわる”、“腕を上げる”等は普段の生活の中で行っている動作。
それをステージでお客さんに見てもらうには、やっぱり美しくなきゃならない。
何気ない動きでも指先まで神経が行き届き、自分の身体をちゃんと意識していなければなりません。
自宅で普通に動いているのとは違うのです。

とにかく凄く緊張しました。
かと言って、意識しすぎてもいけない。
カッコ良く動こうとするとわざとらしくなってしまう…。
本当に難しいです。

後でジャンさんに綺麗に動けなくてゴメンナサイと言うと、僕をダンサーではなくミュージシャンとして扱っていたので全然ダイジョウブとの事でした。
なるほど、ダンサーの真似などせずに自然体でいれば良かったんですね。
※その“自然体”もまた難しいのですが…。

今回は本当に良い経験をさせて頂きました。
本物の身体表現は無理でも、演奏後のお辞儀くらいは綺麗に出来るようになりたいものです。
今度鏡の前で練習してみよう!

打ち上げは永福町のイタリアンレストランで。
フルコースで腹いっぱい。
パスタも肉もガッツリの量で嬉しかったなぁ!
また行きたい。
(そう言えば永福町はヴァイオリンのレッスンで高校生の頃に通った街です。)

森田志保, ジャン・サスポータス, 齋藤徹, 喜多直毅

そうそう、ジャンさんのアイディアでアンコールでは四人が白い大きな布にくるまる事になりました。
徹さんと僕が“アマポーラ”を弾いていると、志保さんとジャンさんが左右からクルクルと布を巻き付けながら近づいて来る。
『殿!お戯れを!』の逆パターン。
そして最後は四人が一つのシーツに包まれて終わります。

森田志保, ジャン・サスポータス, 齋藤徹, 喜多直毅

そして下の写真は衣装合わせの徹さんです!
新キャラ!
齋藤徹
この白い布と志保さんのドレス、どちらも小野塚佳さんの作品です!美しい!

四人のパフォーマンスですが、今回は予約が殺到しかなりのお申込みをお断りしなければならなかったそうです。
ということで、5月にもう一度同じメンバーで公演が行われることになりました!!!
※内容は違うと思います。

裏ねじ9
日程:5月28日(木)
出演:森田志保(dance)Jean Sasportes(dance)齋藤徹(contrabass)喜多直毅(violin)
場所:Studio Tornillo(スタジオ・トルニージョ)
   東京都武蔵野市吉祥寺東町2-1-6ドルチェ吉祥寺B1
   0422-20-5898
※開場・開演時間、ご予約先、料金などの詳細は追って告知致します。

どうぞお楽しみに!

※写真は北澤壮太さんによるもの。打ち上げと徹さんの衣装写真を除く。


さて今日は明大前・キッドアイラックホールにて『祈りの歌』のパフォーマンス。
出演者は昨日に引き続きジャンさん、徹さん、僕。
そしてソプラノのさとうじゅんこさんが加わります。

初めに言っておきます。
途中で弦が切れました!!!!!
一番高い音域のE線。
絶句…。
パフォーマンスの半ばあたりです。
速めの6/8拍子の曲だったか、その前の曲だったか…、もう記憶は定かではありません。

弦を張り替えるためには地下の控室へ行かなければなりません。
その為にはステージを横切り、お客さんから丸見えのままドアを出なければならない。
“目立つ”どころではありません。
誰が見ても『おいおい、どこ行くんだ!?』です。
ひょっとしたら我慢できずにトイレに行ったと思われるかも。

とにかくプログラムの最後にあの“シャコンヌ”が控えています。
もし即興演奏や単旋律でOKな曲が最後まで続くなら、三本弦で弾き続けたと思います。
今までにも同様のアクシデントを何度も経験しています。

しかしシャコンヌには四本無いとダメなんです。
絶対に!!!

そしてもう一つの問題が…。
それは一度弦を張り替えるとチューニングがグチャグチャになり、安定するまでには数時間から一日はかかるって事。
新しい弦だけが狂うのではなく、バランスを欠いた他の三本の弦も一緒にダメになります。
殊に今回の裸ガット弦なんて一番安定しません。
この本番中にチューニングが合わないことは火を見るより明らかでした。

でも『弾きたい!』と思った。
シャコンヌの直前、徹さんがコッソリ「弾ける?」と聞いて下さったのですが、僕は『弾いた方が良い!』と思ったのです。

そこで決断!
思い切って区切りの良い所でステージを横切り、地下の楽屋で弦を張り替え、またホールに戻りました。

案の定、演奏中、どんどん調弦がおかしくなっていきました。
もともと音程の良いヴァイオリニストではありませんが、更に変態度の高いシャコンヌになって行く…。
ここまで来るともう音程を修正しながら弾くなんて無理。
でも最後の音を目指してひたすらまっすぐに演奏しました。

下手な演奏をお客さんに聴かせるわけにはいかない!と言うプロ意識よりも、弾きたい気持ち、そしてひょっとしたら何かが見えるかも?と言う期待に駆られて弾いた俺。
ホント、しょうもない人間です…。

実に悔しい本日のシャコンヌでした。
でもまだまだ諦めません!!!
メゲない、懲りない、負けない!
今まで一万回は下手な演奏をして恥をかいてきましたが、その上に一回加わっただけです。
一万回も一万一回も変わりありません。

とは言え、今日来て下さったお客さんには本当に申し訳ありませんでした…。
また聴きにいらして頂けると大変嬉しく思います。

雪辱戦!
次回のシャコンヌ演奏予定は5/10(日)。
本日はソプラノとコントラバスとのトリオでしたが、今度は原曲通りソロです!

喜多直毅ヴァイオリン独奏
Chaconne(J.S.Bach)、Tango Etude(A.Piazzolla)、即興演奏、自作曲

日時:2015年5月10日(日)
   14:30開場 15:00開演
   ※16:00頃終演予定
会場:KID AILACK ART HALL 3F Gallery(明大前)
   〒156-0043 東京都世田谷区松原2丁目43-11
   03-3322-5564
料金:予約¥2,000 当日¥2,500
ご予約・お問い合わせ:
   電話 03-3322-5564 
   メール arthall@kidailack.co.jp

さてちょっと時系列は前後しますが、僕が弦を張り替えてホールに戻った後の話。
ホールの入口ドアから自分の演奏場所までステージを横切っていかなければなりません。
ステージでは既にジャンさんのダンスと徹さんの即興演奏が始まっています。
お客さんも皆んなパフォーマンスに集中している…。
今、ステージを横切って行くのはまずい。

どうしたら良いかな…と困っていると、僕の後ろにジャンさんがすっと近づいて来ました。
そして踊りで僕を元の演奏場所に導いてくれたのです!!!!!

ジャンさん、有難う!!!!!
ホント、最高でした!!!

弦が切れて良い演奏が出来なかったのはとても悔しいけれど、でもジャンさんの温かさが凄く伝わって来ました。
とても嬉しかった。
そして踊りを通して、こんなふうに他者に手を差し伸べられるジャンさんが本当に素晴らしいと思いました。
この温かさが客席にも届き、人々は心打たれるのでしょう。

今日のこの経験こそもしかしたら僕の祈りに対する神様からの答えだったのかも知れません。
最近、僕は演奏前に祈るようにしているのですが、『自分が上手く弾けますように』としか祈っていなかった。
しかし神様はそうじゃないだろってずっと思っていたのかも知れません。
上手く弾けたぜ!と言う結果や自己満足よりも、もっと大事なものを与えられました。

祈りはちゃんと聞かれている。
僕が欲しがっているものではなく、僕に一番必要なものが与えられる。

今日のジャンさんとのワンシーンを通して、そんな事に気付かされました。
まるで一本の弦と引き換えに。

有難う、ジャンさん。

齋藤徹, ジャン・サスポータス, さとうじゅんこ, 喜多直毅