2019年7月17日水曜日

挫折と初心と喜多クアルテット

齋藤徹さんが亡くなって暫く経ちました。
これまでの歩みを振り返って、徹さんとの出会いは自分の人生の中でとても大きく、それだけに逝ってしまった事も大きな出来事です。
徹さんとの別れが自分の音楽人生の一つの節目ではないかと最近強く感じています。

この10年間、音楽活動に様々な事があったように、プライベートな生活にも大きな出来事が多々ありました。
寧ろプライベートな生活の方にこそ、巨大地震があり大津波があったと言って過言ではありません。
音楽活動は実は影のようなもので、実生活はもっとドラマティックで波乱に満ちたものでした。
いつの日か、この日々にどんな事を経験したか詳しく記したいと思っています。
それはきっと様々な人の役に立つ文章になると信じているからです。
しかし今はまだ伏せておきます。

ただ少しだけ、10年前のことを思いつくままにラフに書いてみたいと思います。
人様に迷惑をかけない範囲で、です。

2009年4月13日、10年前の演奏姿。翠川敬基さんのバンド“緑化計画”のライヴ。
@アケタの店(東京・西荻窪)

様々な人に出会いました。
両親から虐待され、40歳を過ぎてもその呪縛から逃れられずに苦しむ男性。
他者との関係だけではなく自分自身との関係がうまく築けずに悩んでいました。
彼とは何度か実際に会って色々な話をしたり、カラオケに行ったりしました。
高学歴なのに、能力があるのに、一度人生で躓いてしまった。
それが元で職を失い、家族を支えるためアルバイトスタッフとして不本意な仕事をしている。
それは社員さんに郵便物を配って回る仕事でした。
「仕事があるだけ感謝」と言って、自分自身の今の姿を何とか受け入れようとしていました。
めげつつもめげない様に、負けそうになりながらも負けない様に…、まるで嵐に揺れる一本の草のごとく生きている人でした。

拒食症の女性もいました。
彼女ともたまに会って食事をしたり、カラオケに行ったりしました。
旦那さんとの関係を断ち切って新しい人生を歩みたいのに、どうしても“元の鞘”に戻ってしまう。
そんな自分が嫌で嫌で仕方がないと言っていました。
別の女性は子供の頃にイジメにあった経験がトラウマとなり、ずっと引きこもっていました。
やっと外に出られる様になり、社会との関わり作りのリハビリとして、ホームレスの人たちの売る雑誌を買い彼らの話し相手になっていました。

入谷や竹ノ塚、梅島にも思い出があります。
そこには自分で自分の人生を台無しにしてしまった人たちがいました。
一度落ちるところまで落ちてやっと立ち直ったかと思うと、自らまた元の泥沼に戻ってしまうのです。
彼らの濁った目を忘れることが出来ません。
その目は単に濁っているのではなく、救いを求める弱い者の目でした。
殴られそうになった時、自分を庇う腕。
その腕の下から相手を見上げる時の、あの目です。

ある男性は奥さんに離婚を突き付けられました。
理由は彼が奥さんに暴力を振るうからです。
彼は何とか暴力を止めるべく努めていたのですが、「あなたは何も分かっていない!!!」とある女性から激しくなじられました。
返す言葉もなく額に脂汗を滲ませながら、彼はその場に立ち尽くしていました。
その女性もかつてパートナーから暴力を受けて、心に深い傷を負っていたのです。
彼は「人間失格」という烙印を押され、そして自らそう名乗ることでその場は許され、項垂れて帰って行きました。
後から知ったのですが、その女性は妻子ある男性と不倫関係にありました。
僕は何だか釈然としませんでした。

ここに書いた人たち以外にも様々な人に出会いました。
心の病と貧困に苦しむ人。
真夏の東京でエアコンもなく、板橋のゴミゴミした街路の奥に彼は暮らしていました。
近所のマンションには別れた奥さんが娘と暮らしており、たまに娘に会えることだけが楽しみだと言っていました。
抗うつ剤をビールで流し込んでいるので、酒と薬を一緒に飲むのは良くないと忠告すると「お前は真面目過ぎる」と言われました。

列挙してみると、所謂“不幸”な人たちですが、彼らからするとこの僕も“不幸”に見えたかも知れません。
実際、心の有り様や暮らしぶりは大して彼らとは違いなかったのではないかと思うのです。
彼らは社会や人間関係から孤立した人達。
世の中で尊ばれる価値観から遠く離れた人達。
自分なんかこの世に必要のない存在だと感じている人達。
そんな彼らと出会ったのは僕にとって意味のあることだったのでしょう。

10年前の僕の状態を一言で言い表すとすれば、それは挫折です。
僕は、挫折は誰にでもあり得ることで、それなくしては人間は成長しないと思っています。
挫折の只中は決して気分の良いものではありません。
しかしそれを通してしか分からないことがあり、後に人間に深みを与え、人生の大きな財産になり得る。
その輝きは決して人目を引くほど煌びやかではないかも知れない。
しかし心の目で見た時に分かる。
その人生は薫り高い。

潮が引く様に周囲から人が去っていく。
僕はそれを経験しました。
あぁ本当にこういうことがあるんだと一人呆然としていました。
去っていった人たちを恨みもしました。
しかし同時に、その人たちもそうせざるを得なかったんだと、自分を納得させることに努めました。
そして自分も間違っていた、自分の方が悪かったんだと次第に分かってきた。
(ここ数年です、やっと彼や彼女が去っていった理由が腑に落ちて恨みが消えたのは。)

実際、彼ら(上に書いた人達)が今どこでどうしているかは分かりません。
しかし悩みや問題が少しでも解決出来ていて、明るく暮らしていてくれればと願います。
そして人生の谷間を歩んだ経験がきっと彼らを幸せに導くと信じています。

世の中には躓き倒れる人がいる。
しかし起き上がる人だっている。
僕はその両方に向けて音楽をやりたいと思っています。
否、人に向けてというよりも、僕も躓き起き上がる人間として、自分が聴きたい音楽がやりたい。
それが喜多クアルテットの音楽です。

冒頭の話に戻りますが、僕は喜多クアルテットも一つの節目ではないかと思っています。
このグループを始めた頃は聴く人はまだまだ少なかった。
しかしそんなことは一つも気になりませんでした。
客席が空いていても、会場には気持ちや願いが満ちていて、ただ音楽がありさえすれば良かった。
メンバー達のエネルギーによって音楽は燃焼し、まるで黒い蒸気機関車の様に疾走しました。
僕は演奏で滅多に汗をかきませんが、このグループのライヴの後はシャツがびっしょりと濡れ、着替えの下着が必要なほどでした。

喜多直毅クアルテット結成後二度目の公演『新・東北音楽紀行』  喜多直毅(作曲・ヴァイオリン)北村聡(バンドネオン)三枝伸太郎(ピアノ)田辺和弘(コントラバス)  2011年4月23日@渋谷・公園通りクラシックス
喜多直毅クアルテット結成後二度目の公演『新・東北音楽紀行』
喜多直毅(作曲・ヴァイオリン)北村聡(バンドネオン)三枝伸太郎(ピアノ)田辺和弘(コントラバス)
2011年4月23日@渋谷・公園通りクラシックス

今、結成当時とそっくりそのまま同じ様にやろうとは言いませんが、やはり初心忘れるべからず。
自分がなぜこのグループを始め、何をやりたくてここまで来たのか。
改めて問い直す時期に来ているのかも知れません。

前回の記事でも書きましたが、今回の公演タイトルには丁度『青春』という言葉を使いました。
初心云々を込めて付けたタイトルではありませんが、このグループが若かった頃、言うなればクアルテットの青春時代をもう一度思い巡らしたい。
そしてあの頃の姿勢に立ち返るべく、今回の公演を行いたいと思います。
ある意味、再出発となろう公演です。
皆さま、是非お出かけください!

◉7/24夜 喜多直毅クアルテット『青春の立像』 ~沈黙と咆哮の音楽ドラマ~(永福町)


喜多直毅クアルテット『青春の立像』~沈黙と咆哮の音楽ドラマ~  喜多直毅(作曲・ヴァイオリン)北村聡(バンドネオン)三枝伸太郎(ピアノ)田辺和弘(コントラバス)  2019年7月24日@sonorium
喜多直毅クアルテット『青春の立像』~沈黙と咆哮の音楽ドラマ~
喜多直毅(作曲・ヴァイオリン)北村聡(バンドネオン)三枝伸太郎(ピアノ)田辺和弘(コントラバス)
2019年7月24日@sonorium

出演:喜多直毅クアルテット
   喜多直毅(作曲とヴァイオリン)
   北村聡(バンドネオン)
   三枝伸太郎(ピアノ)
   田辺和弘(コントラバス)
内容:喜多直毅オリジナル作品

技巧・楽曲構造・感情の発露の全面にわたり、大きな振れ幅をもつのが魅力のユニットであるが、同等な存在感をみせつけるのは、音楽の増幅の狭間から覗く現実感たっぷりのざらついたテクスチュアである。楽器と肉体との接合の在り様か。「いぶし銀」という単語も近くて遠い。ノイズとも異なる。プリペアド奏法やそれらが生む掠れや軋みや沈黙、さまざまな様式の諸要素をはらみつつ、感情面では喜怒哀楽が同期する。苦悩や贖罪意識、希望がないまぜに膨れ上がる。ハードなドライヴ感ではあるが、何かに突き動かされて前進せずにはおれないような逼迫感に貫かれる。
文章:伏谷佳代
JazzTokyo #12019年7月24日喜多直毅クアルテット@ソノリウム公演069 3/3 喜多直毅クァルテット二日連続公演『詩篇』ー沈黙と咆哮の音楽ドラマー』

日時:7月24日(水)19:00開場 19:30開演
会場:ソノリウム(永福町)
   168-0063 東京都杉並区和泉3-53-16 
   TEL 03-6768-3000
   京王井の頭線 永福町駅下車(北口) 徒歩7分 
   東京メトロ丸の内分岐線 方南町駅下車 徒歩10分

料金:予約¥4,000/当日¥4,500

ご予約/お問い合わせ
◾︎メール:violin@nkita.net
※メールタイトルは「喜多直毅クアルテット7/24予約」、メール本文に《代表者氏名》《人数》《連絡先電話番号》を 必ずご記入の上、お申し込み下さい。

◉ ご予約に際しての注意事項
・ご予約の締め切りは公演前日7月23日深夜24:00までとさせて頂きます。
・10歳以下のお子様のご入場はお断りする場合がございます。

主催・企画制作:喜多直毅
制作アシスタント:山本悦子
フライヤーデザイン:山田真介

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