2017年9月15日金曜日

今週土曜日は長浜奈津子さん(女優)の朗読とコラボ!@下北沢LadyJane

喜多直毅(vln)長浜奈津子(女優)
長浜奈津子さん(女優)とリハーサルしました!

昨日・今日と女優の長浜奈津子さんと、今週土曜日に下北沢LadyJaneで行う朗読会のリハーサルでした。
奈津子さんは俳優座に所属し様々な公演に出演していらっしゃる他、朗読会も頻繁になさっています。
またタンゴ歌手としても活躍中。
共演は今回が初めてではなく、前に二度ほどご一緒させて頂いています(一度は芝居、一度は朗読)。

実は最近、朗読とのコラボが続いており、何か『今やるべきこと』として神様に示されているような気がします。
8月には軽井沢朗読館で高樹のぶ子さんの短編小説を元NHKアナの青木裕子さんと。
やはり8月下旬、横濱エアジンで宮沢賢治の作品(主に詩)。
9月に入って永井ウィメンズクリニックで女優の森都のりさんの朗読で宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』。
そして今回の奈津子さんとの朗読会@LadyJaneです。

さてこの度奈津子さんが取り上げたのは永井荷風の『濹東綺譚』と坂口安吾の『桜の森の満開の下』。
休憩を挟んでどちらかを第一部、どちらかを第二部としてお送りします。

濹東綺譚は、昭和初期に賑わった私娼街『玉の井』での老作家とお雪という女の恋愛を描いています。
玉の井とは現在の東京都墨田区東向島五丁目、東向島六丁目、墨田三丁目周辺。
僕は町歩きが趣味なのですが、このあたりはたま〜に散歩に行っていました。
入り組んだ路地の奥にレトロな娼館がまだ少しだけ残っていたりして、当時を偲ぶことができます。
今となっては寂れた感も否めないのですが、たまに良い感じのカフェがあってコーヒーや食事を楽しめます。
皆さんも是非散歩してみて下さいね!

古民家カフェ『こぐま』。鳩の街商店街にあります。ランチが美味い!そして寛げる。

喫茶店『カド』。壁や天井を埋め尽くす絵画に圧倒されます!
この前行ったらスクリャービンがかかってた…。
くるみパンとか自家製生野菜ジュースが最高です!

比較的淡々とした筆致で老作家と若い娼妓の恋愛が綴られていますが、繊細で“もののあわれ”に満ちた情景描写が素晴らしい!
この“もののあわれ”、紫式部、否、古今和歌集やもっと遡って万葉集の時代から、日本文学の根底にある美学のようなものだと思います。
※Wikipediaには“もののあわれ”=無常感的哀感と説明がありました。
わが国ではこの感覚が尊ばれて、ずっと昭和の頃まで続いているのを実感。
作品中、風鈴の幽けき音色や秋風でへし折れた庭の草花の描写が何度か現れるのですが、それらを通して登場人物の微妙な心模様をしみじみと描いており、実に哀愁と情趣にあふれています。
今回は僕の演奏にも作品と朗読の力によって“ものあわれ”が加わるのではないか…、そんな期待をしています。

さて、今回の朗読では読まれない箇所ですが、濹東綺譚には後書きの様な部分が続いています(後書きとしては結構長い?)
その中に荷風の価値観を表現している様な箇所があり、とても気に入ったので引用したいと思います。

以下引用:

「然し今の世の中のことは、これまでの道徳や何かで律するわけに行かない。何もかも精力発展の一現象だと思えば、暗殺も姦淫も、何があろうとさほど眉を顰しかめるにも及ばないでしょう。精力の発展と云ったのは慾望を追求する熱情と云う意味なんです。スポーツの流行、ダンスの流行、旅行登山の流行、競馬其他博奕ばくえきの流行、みんな慾望の発展する現象だ。この現象には現代固有の特徴があります。それは個人めいめいに、他人よりも自分の方が優れているという事を人にも思わせ、また自分でもそう信じたいと思っている――その心持です。優越を感じたいと思っている慾望です。明治時代に成長したわたくしにはこの心持がない。あったところで非常にすくないのです。これが大正時代に成長した現代人と、われわれとの違うところですよ。」

~途中略~

現代人がいかなる処、いかなる場合にもいかに甚しく優越を争おうとしているかは、路地裏の鮓屋に於いても直ただちに之を見ることができる。
 彼等は店の内なかが込んでいると見るや、忽たちまち鋭い眼付になって、空席を見出すと共に人込みを押分けて驀進ばくしんする。物をあつらえるにも人に先さきんじようとして大声を揚げ、卓子たくしを叩き、杖で床を突いて、給仕人を呼ぶ。中にはそれさえ待ち切れず立って料理場を窺のぞき、直接料理人に命令するものもある。日曜日に物見遊山ゆさんに出掛け汽車の中の空席を奪取うばいとろうがためには、プラットフームから女子供を突落す事を辞さないのも、こういう人達である。戦場に於て一番槍の手柄をなすのもこういう人達である。乗客の少い電車の中でも、こういう人達は五月人形のように股またを八の字に開いて腰をかけ、取れるだけ場所を取ろうとしている。
 何事をなすにも訓練が必要である。彼等はわれわれの如く徒歩して通学した者とはちがって、小学校へ通う時から雑沓ざっとうする電車に飛乗り、雑沓する百貨店や活動小屋の階段を上下して先を争うことに能よく馴ならされている。自分の名を売るためには、自ら進んで全級の生徒を代表し、時の大臣や顕官に手紙を送る事を少しも恐れていない。自分から子供は無邪気だから何をしてもよい、何をしても咎とがめられる理由はないものと解釈している。こういう子供が成長すれば人より先に学位を得んとし、人より先に職を求めんとし、人より先に富をつくろうとする。此努力が彼等の一生で、其外には何物もない。
 円タクの運転手もまた現代人の中うちの一人いちにんである。それ故わたくしは赤電車がなくなって、家に帰るため円タクに乗ろうとするに臨んでは、漠然たる恐怖を感じないわけには行かない。成るべく現代的優越の感を抱いていないように見える運転手を捜さなければならない。必要もないのに、先へ行く車を追越そうとする意気込の無さそうに見える運転手を捜さなければならない。若しこれを怠るならばわたくしの名は忽たちまち翌日の新聞紙上に交通禍の犠牲者として書立てられるであろう。

これ、当時の世人に対する批判ですが、現代にも当てはまりますよね。
我先に!とばかり、皆んなが自己実現のために汲々として押し合いへし合い蹴落とし合いをしている。

この文章が書かれたのは昭和初期(戦前)。
で、明治生まれの人と大正生まれの人を比較している。
今なんかと比べて、当時はまだ社会がノンビリしていて人々にも心の余裕があった時代だと思っていたのですが、実は既に現代とそう変わりなかったようです。
荷風が今の世の中を見たら何て言うでしょう?

いつの時代でも人は華美な流行を追い、他の人に遅れまい・先んじようとする。
目先のものに囚われて欲望の赴くままに生きようとする。
(僕もその通りの人間で実に情けなく思います。)

荷風はそう言うものから一歩距離を置いて、時代から置き去りにされた様なものに眼差しを注いでいた様な気がします(決して上から目線ではない)。
東京でも辺鄙なエリア、貧しい路地裏、人々の日常…。
実はこれらにこそ趣きがある。
荷風はここに侘び寂びを見出して作品にしたのだと思います。

是非、今回の濹東綺譚でこんな世界に触れて頂きたいと思います。


さてもう一つの作品は坂口安吾の『桜の森の満開の下』。
こちらは濹東綺譚とは全く異なる世界!
時代は平安の頃、一人の山賊と美しい女の幻想的な物語です。
この美しい女は大変わがままで気位が高い。
そして残酷!

かなりグロテスクなシーンもあるのですが、同時に大変美しい場面も登場します。
この“美”と“醜悪さ”の拮抗が実に素晴らしい!
ストーリーにも変化とリズムがあって面白いです。

どうぞお楽しみに!


それと二つの作品の奈津子さんの読み分けも聴きどころと思います。
リハーサルは坂口安吾、永井荷風の順で行ったのですが、奈津子さんが荷風を読み始めた時、目の前に昭和初期の東京が現れた気がしました!
これは実に見事!
小説の内容と同様に朗読そのものもお楽しみ頂けると思います!


今週土曜日は是非下北沢へお出かけください!
お待ちしています!


墨東奇譚」の地 
長浜奈津子(朗読)喜多直毅(ヴァイオリン)

タンゴの調べに乗って、ボルヘス詩を多々朗読してきた女優が、ヴァイオリンのディアスポラを道づれに荷風世界に踏み入れる。

1部~ 永井荷風「墨東奇譚」より「玉ノ井夜想~大江匡とお雪」
2部~ 坂口安吾「桜の森の満開の下」

出演:長浜奈津子(朗読)
   喜多直毅(ヴァイオリン)

日時:2017年9月16日(土)19:00開場 19:30開演
会場:Lady Jane(下北沢)
   155-0032  東京都世田谷区代沢5-31-14
   TEL 03-3412-3947

料金:ご予約¥2,700 当日¥3,200(+ドリンクオーダー)
ご予約・お問い合わせ03-3412-3947Lady Jane


そしてこの朗読会の翌日となりますが、日曜日の午後はお馴染み『ファド化計画』のライヴがあります。
メンバーはさがゆきさん(vo/gt)、翠川敬基さん(vc)、そして喜多(vln)の三名。
日本語歌詞によるファド、その他ラテン音楽やブラジル音楽、昭和歌謡などをお送りする予定。
会場は雑司が谷の古民家を改装したカフェバー・El Chocloです。

皆さん、こちらもどうぞ宜しくお願いします!

2017年9月17日ファド化計画:さがゆき(vo&gt)喜多直毅(vln)翠川敬基(vc)@雑司が谷TangoBarエル・チョクロ
2017年9月17日
ファド化計画:さがゆき(vo&gt)喜多直毅(vln)翠川敬基(vc)
@雑司が谷TangoBarエル・チョクロ

出演:ファド化計画
   さがゆきvocal and guitar
   翠川敬基(cello)
   喜多直毅(violin)
内容:日本語によるファド、ラテン、昭和歌謡、オリジナルetc

日時:2017年9月17日(日)14:00開場 15:00開演
会場:雑司が谷TANGO BAR エル・チョクロ
   〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-2-8
   03-6912-5539

料金:ご予約¥3,900 当日¥4,300
予約・問合せ:エル・チョクロ
   03-6912-5539/info@el-choclo.com
   violin@nkita.net(喜多)

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