GTDによる仕事術はフリーの音楽家に効くか?

OmniFocus

仕事をする以上、そこに生じるのが“やらなければならない事=タスク”です。
仕事(プロジェクト)はタスクの集合体・連なりと言えるかも知れません。
その一つ一つのタスクをきっちりこなしていけば、ゴールに辿り着ける(その仕事が無事終了する)。
もちろん思わぬトラブルが発生したりすることもある。
そこで慌てずに今決められているタスクの集まりを俯瞰して、期限をずらしたり延長したりすれば、何とかトラブルが致命傷にならずに済みます。

ひょっとしたらご存知の方も多いかと思いますが、GTDというタスク管理システムがあります。
これはデビッド・アレンという人が書いた『ストレスフリーの整理術』という本による仕事術です。

はじめてのGTD ストレスフリーの整理術
デビッド・アレン

僕は10年くらい前に読みました。
GTDは“Getting Things Done”の略。
とにかく物事を済ませちゃおうぜ、みたいな意味でしょうか。


【GTDのやり方】

《1. 収集》

頭の中にある気になっていること(やらなければならないorやりたいこと)を全て“INBOX”に入れる。
INBOXはパソコンの中に作ったフォルダでも実際の机の引き出しでも段ボール箱でも何でも良い。
とにかく頭の中のものを全てINBOXに入れて、頭は空にする。

《2. 処理/整理》

次はINBOXに入れた“気になっていること”を一つずつ精査して行きます(必ず上から下の順に)。

・それは行動を起こすべきか?という問いを一つ一つに投げかる

- Noの場合、“ゴミ箱”、“いつかやる/多分やる“フォルダ、“資料”フォルダのいずれかに入れる。
- Yesの場合、次にとる行動は一つか、それとも複数かで分ける。

一つの行動で済む
・二分以内で出来ることなら今すぐやる
・二分以内で出来なくて、しかも人に任せたら良いものは『連絡待ちリスト』に入れる。自分でやらなければならないもので、特定の日にやるべきものは“カレンダー”に書き記し、そうでないものは“次に取るべき行動”リストに入れる。

複数の行動を要する
・“プロジェクトリスト/プロジェクトの資料”というフォルダや箱に入れて、さらに行動が一つになるように細分化していく。
例:〇〇ホールでコンサートをやる(複数のタスクが必要)
①メンバーをブッキングする
②会場のサイトを見て利用規約を確認する
③デザイナーにフライヤーのデザインを依頼する
などなど、本当はもっと細々としたタスクが発生するはずですが、とにかく出来るだけ細分化して、一つ一つが余り精神的な負担にならないように分けていきます。
・タスクリストに一つずつ記載し、パソコンやスマホアプリの場合はリマインダーをかけておく。

《3. レビュー/更新》

一日に一回、一週間に一回、月に一回、年に一回。
物事の進み具合や取りこぼし、新たに生じたタスクをチェックして、リストを更新する。
INBOXに新しいタスクが入っていたら、また《1. 収集》《2. 処理/整理》の手順を行う。

《4. 実行》

やる気の低下を防ぐため、小さなタスクの一つ一つを小さくしておき心理的負担を最小限に止める。


ざっとこんな具合です。
GTDなんて言葉を知らなくても、既に同じような流れで仕事をしている方もいらっしゃるかも知れません。

僕は10年前から取り組んでいますが、何度も挫折を繰り返しています!
しかしそのたびに『自分のやり方が間違っていたのではないか?』『もっといいやり方があるのでは?』と再挑戦するのです。
本当はこんな記事を書く資格のない人間なのですが、どうしても書きたかった。
それは何故かというと、フリーの音楽家がGTDを使うメリット・デメリットについて考えたかったからです。
それをこのブログを読んでいる他の演奏家と共有できたらと思いました。

実は僕はGTDを使っても何だか楽になっていないのです。
そもそも仕事量が多すぎるということではないかとも思うのですが、純粋に音楽をやる時間が無い!
一日は24時間。
その中でありとあらゆることを行わなければならない。
その膨大なタスク(多くが事務仕事)が純粋な音楽作りの為の時間・精神的余裕を圧迫しているように感じるのです。

もちろん僕がマネージャーとか制作会社の人間だったら一日中パソコンの前にいたって構いません。
それが仕事なんだから。
しかし僕は本来ヴァイオリンを弾いたり、作曲をしたい人間なのです。

自分でコンサートやライヴの企画制作を行っている演奏家(ライヴハウス系)なら分かると思いますが、僕は一ヶ月に何本もの演奏の仕事をしています。
時期によっては一年後のことを今から計画していたりする。
演奏の仕事だけではなく、作編曲やウェブサイトの更新、フライヤーのデザイン、宣伝広告、リハーサル、ツアーのための主催者との打ち合わせ、レコーディング、沢山のメールの送信、場合によっては映像制作も加わってくる。
難しい曲をやる時は練習をしなければならない。
仕事によっては音源を聴く、DVDを見る、本を読む…も加わる。
その他、家のことやプライベートな用事もある。

とにかく事務仕事に関しては一人ブラック企業みたいですが、周囲の演奏家も恐らく同じようにヒーヒー言いながら仕事をしていると思うので、余り口にして来ませんでした。
でもはっきり言う、ブラック企業です!

こんな状況でも何とか仕事をしていかなければならない。
これまでの挫折経験に基づいて、今は“俺流GTD”に取り組んでいます。
僕は一つのライヴにフォルダを一つ作り、その中にプロジェクトを何個も作っています。

例)
フォルダ“20200415喜多直毅クアルテット@公園通りクラシックス”

◉プロジェクト1-ブッキング

task1-メンバーの空き日を聞く(本番とリハーサル用に)
task2-会場の空き日を聞く
task3-実際の日程をメンバーに知らせる
task4-実際の日程を会場に知らせる
task5-リハーサル用に練習室を予約する

◉プロジェクト2-新曲の作曲

task1-参考にしたい本を読む
task2-テーマを作る
task3-展開部を作る
task4-等々

◉プロジェクト3-広告宣伝(紙媒体)

task1-フライヤーに使用する画像を揃える
task2-デザイナーに依頼する
task3-デザイン案が届いたらチェックする
task4-メンバーにフライヤーを発送する
task5-会場にフライヤーを発送する

◉プロジェクト4-練習など

task1-リハーサルの後、手直ししたい場所を洗い出す
task2-自分用にパート譜を作る
task3-練習をする

◉プロジェクト5-Webでの宣伝

task1-自分のウエブサイト
task2-Facebook
task3-Facebookページ(三つもある!!!)
task4-Facebookイベント
task5-Twitter

◉プロジェクト5-個人へのお知らせ

task1-DMの送り先をリストアップ
task2-フライヤーを送付
task3-メールを送信

こんな感じです。
他にも経理や色々とあるのですが、それは友達がアシスタントを務めてくれているので大助かりです。

以上のタスクを先に述べたGTDのやり方に落とし込んでいきます。
するとやらなければならないことが驚くほど増えます。
本当にびっくりするくらいです。
もうタスクリストを見るのも嫌になります。

喜多クアルテットの場合はこのくらいタスクがあるのですが、これと同時進行して他のライヴもある、作曲もある、宣伝もある…と言った具合なので、完全に全てをこなすのはハッキリ言って無理!だと思うようになりました。
気力体力にも限界があります。
そして最近痛感しているのが、このような事務仕事に忙殺され動員数の維持・向上を目指すことと音楽のクオリティを高めることは必ずしも一致しないってこと。
むしろ反比例することが多い。
最終的には音楽のクオリティを高めることが動員につながるのです。
その増加線はゆっくりかも知れませんが確実だし、話題性とか宣伝で来てくれるお客さんというのは長続きしないもの。
これはどんな仕事にも言えることだと思います。

例にあげた喜多カルテットのプロジェクトを眺めると、純粋に音楽作りと言えるプロジェクトは
◉プロジェクト2-新曲の作曲
◉プロジェクト4-練習など
のみです。
これは何だか寂しい。

音楽って、ずっと音楽の中で生活していないと感覚が鈍るのですよ。
喜多クアルテットのライヴがもう間近だから作曲に取り掛からなきゃ!と思って、数ヶ月ぶりにピアノに向かっても楽想はなかなか出てきません。
それは練習を何週間もしていないと楽器が下手になっているのと同じです。
僕は最近シンガーソングライターライヴもやっていますが、いつも歌詞のことを頭の片隅に置いていないといざ歌作りにとりかかっても何も降りてきてくれません。

齋藤徹さんが即興演奏のワークショップで言っていたこと、それは『普段の生活の中で“パイプ掃除”をしておくことだ』ってことでした。
音楽と繋がるパイプの掃除。
ご自宅にお邪魔すると、いつもシコ・ブアルキやヴィオラダガンバのCDがかかっていました。
もちろん徹さんのセレクションですから、月並みなものではありません。
普通に話している時も食事の時も、常に音楽が流れている家でした。
あれはパイプの掃除だったのかも知れません。

ずいぶんGTDから離れてしまいました。

とにかく自分の処理能力をオーバーしている事務仕事は捨てた方が良い。
それが作詞作曲編曲の妨げになる程量が多いなら。
或いは多少先延ばしにしても良い。
そして音楽の神様はGTD通りに降りてきてくれません。

GTDをやるのは良いし、物忘れを防ぐ上で効果があります。
でもGTDに飲み込まれると肝心の音楽が疎かになることがある。
なぜなら毎日ピンポンピンポンとアラート音がなり響き、『〇〇さんにメール打て!』とか『〇〇さんに電話しろ!』とか言ってくると、もうそれだけで予定に追いまくられてどうも音楽が後回しになってしまうから。
アラートを無視していることも可能ですが、やっぱりヴァイオリンを弾きながら『あー、あれを今夜中にやらなきゃならない』とか考えてしまう。
要するに音楽家ではなく事務員のような心と身体になっているのです。
俺は音楽家だ!
やっぱりほどほどに付き合うのが良いのだと思います。

と言いつつ、最後に僕が試している(試した)いくつかのソフトウエアを紹介します。

まずはMacのGTDソフトの大定番、OmniFocus3。
これはGTDを考案したデビッド・アレンが監修したソフトです。
iOS版もあってMacと同期出来ます。

OmniFocusはiPhone/iPad/Apple Watchでも使えるぞ!

iPhoneやiPadではGPS機能を使ったリマインダーも装備。
例えば自宅というタグをつけておけば、自宅付近に近づいた時『〇〇のタスクをやりなさい!』ってお知らせしてくれます。
難点はMacのカレンダーと連動していないところ。
OmniFocus2では何とか可能だったのですが、OmniFocus3から出来なくなりました。
それと何日から何日までに〇〇をするというタスク表示が出来ない。
OmniFocusはそういう目的で作られていないからでしょうけど。
これをやるなら後述するガントチャートアプリのOmniPlanでやった方がよいのでしょうが…。
それとフォルダとか親タスク・子タスクみたいに、プロジェクトやタスクを階層化すると、ちょっと分かりにくい表示になってしまいます。
iPhoneでOmniFocusに入れた一つ一つのタスク表示させると、一体このタスクは何のためのタスク?ってことになるのです。
所属フォルダとか所属プロジェクトは一応小さく表示されてはいるんだけど、視認性は低いです。
でも今のところこのソフトが一番僕には馴染んでいます。


その次、Todoist。

Todoist

このソフトはWindowsでも使えます。
僕もしばらく使ってみました。
便利なのはGoogleカレンダーと双方完全同期出来るところ。
何日から何日まで毎日と入れると、カレンダーで帯のように表示されます。
他にポモドーロテクニックのアプリとも連携できます。
しかしこのソフト、どうもUIと操作性が気に入らず、今は使っていません。


Thingsも使ってみました。

Thingsはシンプルで可愛い。

デザインは良いけど、結局OmniFocusに戻ってしまいました。
使い勝手は良いです、シンプルで。
やっぱりOmniFocusは結構高かったからってのもあるかも。
高いお金を払って買ったんだから使い倒したい。


OmniPlan。

OmniPlanです。全然使いこなせない。

これはタスク管理ではなく、色々な仕事の流れを横棒のグラフにして俯瞰できるアプリです。
一つのコンサート/ライヴを計画して実行するまでを時間軸で予定立てることが出来ます。
経費の計算やスタッフの作業時間に基づいたスケジュールプランニングも可能。
プロ版だと異なるプロジェクトの進み具合を並べて見ることも出来るので、日程をずらしたり仕事量を調節し、負担を抑えながら仕事の計画を立てることも出来る優れもの。
カレンダーソフトにも書き込むことが出来ます。
ただプロ版はめちゃめちゃ高いっす。
僕もプロ版を購入したのですが、全然使いこなせず放置状態…。
今年は少しずつ使えるようになりたいです。


最後の最後に。
今回の記事では事務仕事のせいで音楽が出来ない!と訴えているように感じられる方もいらっしゃるかも知れません。
実際、それは事実なのですが、一方で本当に事務仕事のせいか?とも思う。
大きな素晴らしい仕事を行っている音楽家は事務処理にも長けていたりする。
それと僕は人一倍怠惰な人間でもあるのです。
じゃがりこ食いながら特捜最前線を見るのが好きなのです。

コメント