Aさんの思い出
憧れの富良野!“北の国から”に使われた五郎・純・蛍が三番目に住んだ家です。 撮影:黒田京子 |
最近、寝ていたら誰かに肩を叩かれて目が覚めると言う体験をしました。
当然、起きたら誰もいない。
でも強めに叩かれた感触がまだ肩に残っていました。
これも前にあった事なのですが、突然『高見順!』と頭にひらめたのです。
それまで全く関係のないアニメをiPhoneで見ていたのですが、なぜか高校生の頃読みふけった詩人の名前がポンと浮かんだ。
懐かしいなぁ、何十年も読んでなかったなぁと仕事部屋に行ってパソコンで彼のことを検索し始めました。
すると背後に視線を感じたのです。
何と背後の本棚に高見順さんの詩集があったのです。
そこに置いた覚えが無いのに!
先日眠れずに寝返りを打っていたら、学生時代にお世話になっていたAさんという男性の顔と名前がパッと浮かびました。
僕がAさんとお付き合いしていたのは、大学二年から卒業後まで。
当時、Aさんは50代半ばだったと思います。
(因みにAさんは既に亡くなっています。)
Aさんは演奏家の派遣事務所を営んでいました。
ご本人もヴァイオリニスト。
関東のホテルを中心に、披露宴のBGMを演奏する弦楽四重奏等を派遣していました。
僕は大学一年生の頃からAさんの披露宴のBGMの仕事を引き受けるようになりました。
一度演奏すると15,000円から2万円くらいもらえて、学生としては随分良いバイトでした。
音大生で世の中のことなど一つも分からず常識も無い僕のことを、Aさんは本当に可愛がってくれました。
大して上手でも無い僕に仕事を回してくれました。
徐々に一つの結婚披露宴のBGMを全て任せてくれるようにもなりました。
それと仕事のあと飲みに連れて行ってくれました。
ホテル・オークラの高級バーとか。
当時僕は朝起きられない人間で、寝坊して何度か仕事に穴を空けたことがありました。
目覚まし時計が鳴っていても起きられないのです。
めちゃめちゃ怒られました(当然ですが)。
僕のせいで会社の信用を傷つけることになり先方に謝りに行ったはずです。
本当に迷惑をかけました。
遅刻のみではなく、僕の演奏が下手すぎてお客さんからクレームがついたこともあったのです。
恥ずかしい話ですが。
Aさん、本当にごめんなさい。
こんなに迷惑をかけて怒られてばかりいたのですが、Aさんは僕を可愛がって面倒を見てくれました。
ジャズピアニストの大御所・世良譲さんのライヴに僕を連れて行き、一緒に演奏させてくれました。
またタンゴの世界に入る一番最初のきっかけを作ってくれたのもAさんです。
とても感謝していますし、面倒見の良い実に暖かい方でした。
ところが一方で困ったところもありました。
それは僕が他の仕事をしようとすると嫌な顔をするところ。
時には怒鳴りさえしました。
今でいうパワハラです。
(でも当時はそんな言葉は無かった。)
それと結婚披露宴が行われる土日のスケジュールを全て押さえられ、しかし直前になってキャンセルになるのも困ったところでした。
日程だけは空けておくように言われる。
僕は他の仕事を入れられない。
それなのにAさんは押さえていた日程の仕事を直前にキャンセルして来たり、場合によっては忘れていたりもする。
これではスケジュール面でも収入面でも予定が立てられない。
音大を卒業するにあたって、Aさんから進路を聞かれました。
Aさんは、僕が彼の会社へ入社したいと言うことを期待していたのだと思います。
当時はヴァイオリンでポップスやロックを演奏するグループが次々と登場し話題になっていました。
G-クレフやクライズラー&カンパニーなどです。
Aさんはそのようなグループを世に出した会社と繋がりがあったので、その方面の世界へ向けて僕を育てようと考えていたようでした。
僕はAさんには感謝はしている。
しかしずっとAさんの元にいては他の仕事が出来ないし、一生結婚式のBGMだけで終わってしまうかも知れない。
(実際、何人かの友人がそのことを忠告してくれました。)
ヴァイオリンでポップスやロックを弾くのも良いけれど、自分が本当に求めているものは違うんじゃないか。
Aさんの仕事も完全に断ち切るわけではないが、自分のやりたい仕事もやっていきたい。
要は自分の道は自分で選びたいと言うことです。
僕は怒鳴られることを覚悟でそう告げました。
そしたら案の定電話の受話器が割れるかと思うほど怒鳴られました。
その後、ファックスが送られてきました。
そこには今まで僕にご馳走した飲み代なんかの金額が全て書かれており、今すぐ払って返せと言うのです。
そして払わなければ裁判沙汰にするとも言われました。
弱ってしまい、友人や先輩ミュージシャンに相談しました。
音楽家ユニオンの法律相談に行ったり。
それとAさんの自宅兼事務所にも行き、話し合ったり。
でも実際はちっとも話し合いにもなりませんでした。
向こうは数人がかりなのですから。
話し合いを録音しますと言ったら大事なことは何も言わなくなりました。
これはトラウマとなり、僕は仕事の話は言質を取られないような言い方を今でもしています。
ファックス。
今でこそメールのやり取りが中心ですが、当時はファックスが主流でした。
帰宅するとAさんからのファックスの紙が何メートルも床まで垂れていることがありました。
物凄いストレスで胃痙攣の発作が起きることしばしば。
ファックスの機械から吐き出される長い紙が蛇のように身体に巻きつく夢も見ました。
そんなこんながあって、次第にAさんからの連絡も途絶えがちになり、僕は英国に留学しました。
帰国して一度だけAさんと電話で話しました(その経緯は忘れてしまった)。
どんな話をしたのか忘れましたが到底和解なんか出来なかったし、結局お互いに相手を恨んだまま、憎んだままで終わってしまいました。
それから数年して、かつてAさんの元で一緒に演奏をしていたミュージシャンの一人から、Aさんが亡くなったことを知らせるハガキが届きました。
お別れ会をします、とのことでしたが、僕は出席しませんでした。
僕の喧嘩の仕方が良くなかったのか、どうなのか。
お互いの些細な言い方や振る舞いのすれ違いが積もり積もって炎上したのか。
そもそもAさんがパワハラで、初めから付き合うべき人ではなかったのか。
ただ人間関係においてどちらか一方が100%悪いってことは滅多にないと思うのです。
(犯罪とかは別ですよ。)
このように書いてくると、Aさんが悪のように捉えられるかも知れません。
しかし一面を見れば面倒見の良い音楽事務所の親方、また別の一面を見ればパワハラだしヤクザなのであって、100%悪ではありませんでした。
果たして寝坊をして何回も仕事に穴を開け、下手をすればホテル側から賠償責任を囚われかねない僕のミスを毎回許すでしょうか?
音大生として初めて世の中に出る際、社会への導入としてお付き合いをすべき人では無かったのかも知れません。
否、むしろ相応しい人だったのかも?
Aさんと会わなければ見えなかったことも多いと思っています。
ずっと良い関係でいることはなかなか難しい。
良い関係だと思っていたものが、実はそうではなく単に自分のエゴのために相手を利用していることもある。
自分の期待で相手をがんじがらめにしていたり、自分の寂しさを埋める為に相手の存在を要求していたり。
前にあるポッドキャストを聴いていたら良いことを言っていました。
「愛」と「好き」の違いについてです。
両方とも花を育てることに例えています。
「好き」は自分の思った通りの花を育てようとする。
ところが咲いた花が好きな色・好きな形でなく、自分を向いて咲かなければ、その花なんか嫌いになってしまう。
対して「愛」は咲いた花が自分の好きな色・形ではなくても、とにかく咲いたことを喜ぶ。
自分の方を向いて咲かなくても、誰かの方を向いてその人を幸せにしてくれたらそれで十分に嬉しい。
さて土日はライヴがあります!
皆さん、ぜひお越し下さい!
【3/23(土)代々木】
喜多直毅(ヴァイオリン)元井美智子(箏) |
出演:喜多直毅(ヴァイオリン)
元井美智子(箏)
内容:即興演奏
日時:2019年3月23日(土) 18:00開場/18:30開演
会場:松本弦楽器(代々木)
東京都渋谷区千駄ヶ谷5-28-10
ドルミ第二御苑804号室
03-3352-9892(場所の問い合わせのみ受け付け)
料金:予約3,000円/当日3,500円(1ドリンク付き)
ご予約・お問い合わせ:violin@nkita.net(喜多)
※12名様限定です。ご予約はお早めに!
※お申し込みの際は《代表者氏名》《人数》《連絡先電話番号》を必ずお書き下さい。
※18:30でメインエントランスの鍵が閉まります。遅刻にご注意下さい。
【3/24(日)浦和】
喜多直毅(ヴァイオリン)黒田京子(ピアノ) |
出演:喜多直毅(ヴァイオリン)
黒田京子(ピアノ)
内容:オリジナル、映画音楽、ヨーロッパの古いポピュラー音楽、etc.
日時:2019年3月24日(日)15:30開場/16:00開演
会場:Act-u(浦和)
埼玉県さいたま市緑区原山1-13-4
アクセス:浦和駅東口より国際興業バス『グランド経由・北浦和行き』“原山小学校”下車、バス停より徒歩1分
料金:当日¥3,000/予約¥3,500
ご予約:
090-5332-1510(宮原)
violin@nkita.net(喜多)
主催:Act-u
企画協力:江古田音楽化計画
どちらも宜しくお願いします!
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